緑に揺れる月光を



―――紅の中へ落とされた碧花は、この上無い程に映えていた。


銃弾が抉り取った彼の左肩の傷は、僕が溢れた感情を波に乗せた数分間で塞がった。彼は恐ろしく自己治癒能力が高くて、羨ましくもある。だって、それだけ自己治癒能力が高ければ、彼が知らず知らずのうちに抉り取っていくこの胸の痛みすらも数分間でなくなってくれる気がするんだ。

「もう……あんなこと言わないで」

今だって、叫びだしたいくらいに痛む胸を薄い皮膚と血みどろの肉の下に埋めているのに。

「……あぁ」

彼も、……彼も同じだろうか?
彼も僕と同じ痛みを味わい、その自虐的薄笑いの仮面の下で藻掻き苦しんでいるのだろうか?

「肩を、貸してくれないか」

「? 何処か……行くの?」

「真夜中の音楽祭へ」

そう言って笑う彼の腕を肩に回す。
その横顔は、先程死に急いだ道化の顔ではなかった。
立ち上がってふらつく彼を支えながら、星の元へと出る。
星は、全てを射殺す冷酷さと、全てを抱擁する母のような暖かさの両方を孕んでいる。
そんなものを見て、彼は、笑うのだ。
そんなものでしか彼を笑わせられないのだ。

空いた手を、翠玉のように煌めき続ける月に伸ばして

「         」


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

綺麗な夜な筈なのに
不気味に見える今日の月は
きっと君を連れ去ってしまう


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