補い合うための捕食
彼は僕に馬乗りになって、口を開く。
「私がお前を跡形も残らず食べたならば、一体どうなるだろうか?」
あまりにも遠回しで率直な物言いに、押されている腹から笑いが込み上げてくる。
「いいよ、食べて」
どうせこうなる運命だったのだから。それが少しだけ時期が早まっただけのことだ。
「僕が、君に空いた穴を埋められるならば」
歪められた紅い瞳が、悲し気に――はたまた煌々と輝くのを見た。
僕のくすんだ右の碧の瞳とは比べ物にならないくらい綺麗に見える。眼帯に隠された左の瞳は、彼と同じ紅いそれだがまた違うように感じる。
「喜んで」
上手く笑えただろうか?
期待と不安に脈打つ胸に、喜びと相反する感情を隠しながら。
「すまない。後のことは……」
「分かってるよ」
もう、何も言わずに……。
あぁ、僕は何処から食べられるんだろうか?
足の先から? 頭から? それとも膓?
もしかすると"食べる"のは形だけで行為そのものではないのかも知れない。
どちらにせよ、彼と一つになれるのなら
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