言葉じゃ伝えられない心がある 06
「クソッ……馬鹿力が……うっ」
グシャッ
「あれ? 何か聞こえたアルか」
「あの……めり込んでるけど」
男の吐いた悪態は、神楽が男の頭に置いた足に力を加えたことで、呻き声となって消えた。遠慮がちに男の安否を気にしたのは新八だ。
「ほら、早く質問に答えるネ」
そんなこともお構い無しに、神楽は男に答えを催促する。男はこの状態で抗うことはできないと悟りつつ、軽く舌打ちをして口を開いた。
「ふん……そいつに聞いたほうが早いんじゃないのか」
そいつ、と言って男は忌々しそうに奨へ目線を向けた。それにつられて一同も奨に注目する。
「えっ、何のことですか……?」
しかし本人は不思議そうにそう尋ねるだけだった。その様子を見て、男は痺れを切らしたように怒鳴った。
「すっとぼけてんじゃねーよ! テメーが『文書』を持ってんだろうが!」
「『文書』……?」
「お前の親父が残した『文書』だよ! 真選組の奴に渡すわけがねぇし、女だてらに渡しても意味がねぇ。なぁ、持ってんだろ?」
「父……? 何の話ですか、文書なんて知りません。突然の死だったので遺書なども見つからなかったんですよ」
奨は男の勢いに少し怯えながら、弁解する。しかし男は全く納得していない。
「やはりシラを切るつもりか。大人しくこっちに渡せばいいものを」
さっきまで痛みに歪んでいた男の表情が、不気味な笑みに変わる。
「お前自分の状態分かってるアルか?」
「テメーらこそ分かってんのか?」
「――!」
男の口から勝ち気な言葉があがると同時に、周りを何十人もの浪士達に囲まれた。
「……その『文書』とやらは、ただの遺書じゃねーようだな」
ずっと沈黙していた銀時が、ゆっくりと木刀を抜いた。
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