言葉じゃ伝えられない心がある 05
「ああ? 何言っ――」
眉間に皺を寄せ、首を後ろに回した男の目の前には、傘の先があった。
「て……」
一瞬怯む男だったが、傘の柄を握るのが年端も行かぬ少女だと見て取ると、口元が嘲るように歪んだ。
「何だ、驚かすなよ嬢ちゃん……そんなもん向けたらこいつが危ないぜ?」
男の見下すような言葉に不敵な笑みを浮かべ、少女――神楽は言った。
「オッサンもうちょっと状況理解したほうがいいネ」
「は?」
男が素っ頓狂な声をあげた直後、男の手元に鈍痛が走る。
「ぐぁっ……」
男は明らかに油断していた。そのため真っ正面から近付いていった新八に気付かず、まんまと木刀で思いっきり右手を叩かれたのだ。男は突然の力にたえられず刀を落とし、奨は解放された。
「くそっ……のやろっ……」
「おおーさすがぱっつぁん! 地味だから全く気付かれなかったね地味だから」
「何で嫌味を込めるんですか」
「奨っ! よ、良かった……怪我は」
「大丈夫ですよ、円」
「銀ちゃーん。これどうするアルか?」
神楽はいつの間にか男をうつ伏せに倒し、その上に足を乗せていた。さらに男の後頭部にはぐりぐりと傘の先を押さえつけている。
「神楽ちゃん……何かもう……えぐい」
大の男が少女に完璧に動きを封じられている様を見て、心配がリアクションをとりづらそうにする。
「んー、どうするー?」
銀時はそんな光景は気にもとめずに、奨の方を向いた。
「え……えっと」
突然話を振られて言葉に詰まる奨を遮り、円が男に詰め寄った。
「何でこんなことしたんですか!?」
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