言葉じゃ伝えられない心がある 02
「その男は万屋を営んでいるそうで、とりあえず今晩はそちらに泊まらせていただく予定です」
奨は高杉の反応に一応満足したのか、少し話題を変えた。高杉の過去や銀時のことは、全くの部外者である奨が出しゃばって追及する必要はないし、そんな資格すらないように思えた。彼らのことは、彼らにしか分からない。
「おいおい、別に宿泊先まで指図はしねぇが――あいつはなかなか鋭いぜ?」
高杉が、少し呆れたような、しかし楽しそうな調子を見せる。
確かに、あの男には気を付けなくてはならないかもしれない。
「しかし、警戒すべきは鬼の副長と沖田総悟、それと何人かの監察方ぐらいだと武市さんは仰っていましたが……」
. .
「違いねぇ。――組内はな」
奨は静かに笑みを浮かべた。
「大変ですね、監察の仕事って」
「ククッ、励めよ。期待の新星」
「期待の……だなんて、らしくないですね」
「武市がそんなようなことを言ってたからな」
電話の向こうから聞こえる声、きっと高杉は妖艶な笑みを浮かべているであろう。
「そうなんですか。恐縮ですね」
奨は苦笑いを浮かべつつ、廁の外を見やった。
「あ、そろそろ戻らないと怪しまれるかもしれないんで……」
「そうだな」
奨と高杉は軽い別れの挨拶を交わし、通話を終えた。奨は携帯電話を懐にしまい、何も無かったかのような涼しい顔で廁を出たのだった。
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