廁とは絶好の秘密の隠し場所だ 06
その頃、奨は廁を見つけ中に入っていた。誰もいないことを再三確認し、懐から携帯電話を取り出した。
慣れた手つきで電話番号を打ち、相手の応答を待つ。
呼び出し音が数回続いた後、起伏のない声が聞こえてきた。
「もしもし、つんぽですけど」
「もしもし、奨です。音楽活動中でしたか?」
「問題無いでござる」
電話の相手――河上万斉は、鬼兵隊の幹部に属するにも関わらず、『つんぽ』として作曲などの音楽活動をするという表の顔も持っているのだ。高杉の前でも平然とアイドルの曲を考えたりしている彼を、奨はある意味尊敬してしまうときがある。
「真選組に接触成功です。今は真選組屯所に居ます」
「屯所内でこんな会話が聞かれたら任務失敗どころじゃないでござるよ」
万斉が、言葉の割にあまり心配していなさそうに言った。
「まぁ屯所には監視カメラのようなものも一切付いていないようなので、辺りを気をつけていれば大丈夫です」
「そうでござるか」
答えながら、奨は思った。
監視カメラはともかく、見ず知らずの突然やってきた客に監視の一つもないのかと。見ず知らずと言っても真選組内で重宝されている監察の実弟だからかもしれないが。
――それでも、ツメが甘い。
「高杉さんに代わってくれませんか?」
「いいでござるよ」
だから気付かぬうちに、堕ちていく。
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