(ゴーシュとラグ)
「言いそびれてたんだけど…ゴーシュ、ごめん」
それ、痛かったよね、と問うてくるラグが何を指しているのかわからず、ゴーシュは首を傾げた。その行動に意図が伝わってないことに気付いたラグは、そっとゴーシュの右頬に触れる。幼さを示すような温かい体温がそこにぬくもりを与えた。
「この傷、ぼくが心弾銃を暴発させたときのだよね。そのときのことはよく覚えてないけど、会ったときはそんな傷ついてなかったもん。気付いてたのに言えなかったんだ…」
しゅん、とうなだれるラグを見て、ゴーシュはようやく謝られた理由を知る。
確かに右頬に走る傷跡はあの日ラグによって付けられたものだった。そう深くはなかったその傷は、予想外に治っても跡が残っていたが、ゴーシュがそれを気にしたことはない。むしろラグがこれほどまでに気にかけてくれていたことに驚いている。
「そんな…気にすることじゃありませんよ?」
「でも、跡残ってるってことは痛かったんでしょ?」
「多少の怪我は慣れっこですから。大丈夫」
「だけどぼくのせいでゴーシュの顔に…」
どんなに諭しても一歩も引かないラグに、ゴーシュは心の中で困ったものですね、と呟いた。真面目で素直なラグには気にするなと言ったところで無駄だろう。そう結論づけて、ゴーシュは口を開いた。
「じゃあこれが、ぼくがラグのものであることの証だと思ってください」
「……え?」
きょとり、大きな瞳を更に開いてラグはゴーシュを見上げる。
「恋人である証です。これを見るたびぼくもラグのこと思い出せますしね。まあそんなものなくても、いつもラグのこと思ってるんですけど」
ゴーシュの言葉を飲み込むように、ラグはぱちりぱちりと瞬きを繰り返す。哀しそうだった顔は満面の笑みに変わった。
「だったら、ぼくも、ゴーシュのものである証がほしい」
笑顔のまま告げられた内容に、ゴーシュは少し意地悪そうな表情をみせる。少し痛いけど我慢してくださいね、そう呟いてラグの首筋に顔を寄せた。ちくりとした感触にラグがあっと小さく声をあげる。それに満足気に口の端を緩めて、ゴーシュはラグの耳元でそっと呟いた。
「消えたらまたつけてあげますから、言ってくださいね」
傷跡×キスマーク
それは甘い独占欲
09*11*12
.