(ジギーとゴーシュ)


久しぶりに帰った家で思いっきりくつろぐ見慣れた青年の姿を目にし、ジギーはその頭目掛けて手にしたゴーグルを投げ付けた。それは勝手にソファーを陣取るゴーシュに見事命中し、小気味のいい音をたてる。

「…った〜誰ですか…って、あ、ジギー。お帰りなさい」

悪びれた様子のない相手に、彼はとりあえず制帽も投げ付けることにした。















「なんでおまえがここにいる?そして鍵はどうした?」
「手を出す前にそれ聞いてくださいよ」

むすっとするゴーシュにジギーは呆れたような溜め息をついた。ゴーシュがこうやってやってくる理由はひとつだとわかっている。お世辞にも交友関係が広いと言えない彼が頼れる相手などほとんどいない。特にジギーの元へはこの用件以外でわざわざ来たことなどないと言っていいだろう。

「…大方ラグと喧嘩でもしたんだろう?不法侵入したのはさっきのでチャラにしてやる。話ぐらいは聞こう」
「…!ジギー…!」

諦めたような言葉にゴーシュは感動したような声を上げ、ジギーを真顔で見つめた。雪のような睫毛に縁取られた綺麗な瞳が真剣味を帯びる。

「惚れてもいいですか」
「オレにはザジがいる」

素晴らしいまでの一刀両断。
それを聞いてゴーシュは眩しげに目を細めた。

「ザジくん、いい人捕まえましたね」
「逆さ…あんなに好意を示してもらえるオレは幸せ者だ」
「そんなところがいいんですよ。まあぼくにはラグがいますけ、ど…って、ラグーー!!!!」

穏やかに続くかと思った会話はゴーシュの悲痛な叫びに終わる。ああそれで来ていたな、とジギーは冷静に呟き、慌てふためくゴーシュに苦笑をこぼした。












要領を得ない話からだいたいの事情を飲み込んだジギーは、先程までと一変して、ものすごくジト目になっている。自業自得だろうという声が言葉に出さずとも頭の中でリフレインしてきそうな目だ。自分に非があるとわかっているゴーシュは空笑いするしかなかった。

「つまり、ラグにヤキモチを妬かせるためにシルベットばかり構っていたと?」
「はい」
「それで我慢できなくなったラグが飛び出したわけか」
「…はい」
「ザジとなかなか会えないオレには羨ましい話だな」
「はい…あの、すみません」

それなんですが、と言いにくそうにゴーシュは口を開く。

「『ゴーシュなんてもうしらない!ぼく配達行ってくる!』とラグが飛び出したのにザジくんも付いていってですね、」

辛辣な言葉を投げ付けられたときのことを思い出したのか、ゴーシュの瞳が少し潤む。ジギーはそれを無視して先を促した。

「『たまには待つ側も味わってみろよな』だそうです。あなたの帰還が予定日より遅いから待ちきれなかったみたいですよ」

ゴーシュが口を閉じた直後、盛大な溜め息。はああと吐息が見えるような錯覚を覚える程のそれに、幸せが逃げますよ、と言おうとしてゴーシュは口をつぐんだ。その言葉がよりいっそうこの状況を寂しいものにしてしまいそうな気がしたからだ。

「年下の恋人に、お互い振り回される身というわけか」
「そうですね。二人に仕事を渡したあの人は口を割りませんし、待つしかないようです」
「ああ、館長…」

苦笑顔が二人。
どうしようもない状況にそわそわするしかなかった。すれ違いを避けるためには下手に動くこともできない。普段待たせることの多い二人が今回ばかりは待つ立場だ。

「帰りが早ければ四人で出かけるのはどうでしょう?」
「のんびり買い物でもできるといいがな」

ちゃっかりWデートの約束を取り付けた二人は、この場にいないもう二人を想って今度は一緒に溜め息を付いた。



ホリディ
嗚呼、君がいないなんて!








09*11*10


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