※リストカット表現につき注意。














きちきちきち。

鈍い銀色がきらりと光を反射する。いつもなにもせずに放るせいか、赤茶色が覆う面積が多くなっている。それでも残った銀色の部分が月の光をボクに返した。

ちかりと瞼の奥が痛む。対した刺激ではないにしても暗いのに慣れた目には少しきつかったらしい。目元を乱暴に擦って瞬きをする。

きちきちきちきち…かちん。

中途半端に出ていた銀と赤茶が最大限まで出たことを確認して、顔の前にやっていた左手をそのまま正面に持っていった。かちり、簡易なロックをかけたのを耳で聞きながら右手に力を込める。ざらざらした感触が気持ち悪い。世の中で言われるようには綺麗にはいかないことに苛々した。ぐいぐいと力を込めてもうまくいかない。自分では手加減しているつもりはなくともどこかで力をセーブしているのだろう。もう少しと思って一押ししてみたら、ぽたりと赤が垂れた。腕がぬるぬるする。
そう思ったのとほぼ同時、それのせいで固く握りしめていたはずのものを取り落とした。

からんからんと乾いた音をたてるそれを静かに見やってまた失敗したことを悟る。さっきまで確かになにも感じてなかったはずなのに、急に左手首がずきりと重く感じた。

(泣きそう、です…)

いつからこんなことをし始めたのか考えて自嘲がこぼれる。こうすることでしか保てなかった弱さにも、そうでもしてあの場所に立つことを選んだ愚かさにも。

(いっそ泣くだけの強さがあれば…もしかしたら、違ったのかもしれませんね)

泣きわめいて嫌だと言える程子供じゃなかった、仕方ないと諦めて離れられる程大人でもなかった。どうしようもなくてたどり着いた方法がこれだなんて笑うしかない。この流れる赤がボクの涙だと、泣けない自分にそう言い聞かせることでしか前を向けなかった。いや、前なんて向いてない。後ろばかり向いて、今とのギャップに耐えるためにこんなことをしている。

がしゃり。取り落としたままのそれを掴んで手の中におさめる。真新しい錆の元を付けた部分を仕舞うと、とりあえず投げてみた。先程より大きなからんからんという音がする。なんだかもっと虚しくなっただけだった。


いつからかリストバンドが必需品になっていた。でも誰も気にしなかった。付けていてももちろんおかしくはない。だけども誰も気にしなかった事実は小さくボクを蝕んだ。左腕だけだと隠している感じが嫌で、まだ真っ白な右腕にもつけてみた。それでも誰も何も言わなかった。ボクのことは見えていない、ずくりと胸の奥が痛んだ気がした。ボクのことを見つけてくれたみんなはいつの間にか過去へと変わっていた。

泣きそうだともう一度思って、潤みもしない涙腺に絶望する。無意識に撫でていた左腕は、なんとなく赤茶のそれと似た感触がする気がした。




るるわりに

それは手首を伝った






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イメージは中三。カッターのきちきちという音はすき。ハサミのしゃきんという音も。

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