「私も、行っちゃだめ?」


いつものように緑間っちと帰ろうとして、不意にかけられた声に二人して足を止めた。

二人きりで帰るのがいつもと言えるほど当たり前になってる事実に内心苦笑がこぼれる。オレはそれを表に出すことはなかったけれど、隣にいた緑間っちは思いっきり嫌そうな顔をしていた。その表情を向けるものは違うとわかっていても、そんな顔しなくてもいいのにと思わずにいられない。しかし、何か言ってやろうと口を開きかけたところで、表情に見合った声音で否を唱えた彼の言葉に遮られたので、オレの小言は口の中で消えることになった。

「だめなのだよ」
「なんで、」
「なんででも、だ」

それにしても、と思う。
男所帯の男子バスケ部の中で、気圧されるどころか顎で使ってくるような強気な彼女が、随分と弱々しい声を出しているような気がした。本人の明るさを表しているような桃色の髪の毛が、なぜかくすんで見える。

理由は、なんとなく、わからないわけではないけれど。


「ずるい」

ぽつり、と呟かれた言葉が耳に痛い。僅かに俯いた彼女が見ていられなくて目を逸らしたら、隣の彼も見てられない顔をしていた。目元が微かに赤いように見えたのは、見間違いなのだと願いたい。

「ずるいよ、いっつも私だけ仲間外れ。一緒に戦うこともできなかったし、一緒に失うことだってできなかった。だったら、慰め合いぐらい、一緒にさせてくれたっていいじゃない」

それでも声は耳まで届く。けれど、髪に隠れて表情は見えない。そのほうがありがたいと思うオレはつくづく自分勝手な奴なのだろう。
彼女の悲痛な叫びより、慰め合いという言葉につきりと痛む心に、先程飲み込んだはずの苦笑が表に出てきそうだ。

そして、律儀に彼女に応えようとする不器用な彼は、やはり心底優しい奴に違いなかった。

「オマエは、だめだ」
「いや」
「だめだ」
「いや」
「オマエだけは、」
「いや。聞きたく、ない」
「綺麗なままでいてくれ」
「……ずるい」

桃っちからの、何回目かの、ずるい。じくじくと痛むのは耳か心か。どちらにせよ、その言葉に閉口するしかできないオレはすごく弱いのだろう。しぼりだすように本心を口にする緑間っちの強さを、ちょっとでいいから分けてもらいたいものだ。彼の懇願はオレの想いでもあるのだから。

そう、優しい彼女にオレらの綺麗な想い出すべてを背負わせようとしているのだ。ずるい、オレらは。

「…黄瀬、行くぞ」

咎めるような視線から無理矢理逃れてオレにかけられた言葉に、有り難く便乗させていただくことにする。
背を向ける前にちらりと盗み見た彼女の唇は、もう一度だけ、ずるいと動いた。



メモリー

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ずるくたって、いいから







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お互い触れ合うことで空虚な安心を得ようとする、そんな関係。



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