いつもより早めにホームルームが終わり、一番乗りかと思ってきた部室はもうすでに明かりがついていた。なんかの説明会とかで三年生が遅れてくるから消去法で一年か二年の誰かがいるのだろう。そしてそれはおそらく、

「今日も早ぇな、緑間」

緑間だった。しゃがんでいるため見慣れた緑色の頭は予想していたよりも下にあったが、思ったとおりの人物がそこにはいた。


「…その声は、高尾か?」


振り向いた顔にはあるはずのものがなかったけれど。


「あれっ?」
「なんだ」


いつもよりきつい眼差しをこちらに向ける緑間に疑問の声をあげると不機嫌そうな返事が返ってくる。それでも答える意思はあるようなので言葉を続けた。

「眼鏡どったの?」
「着替えるときに落ちたのだよ」
「あーそれでしゃがんでるワケ」

合点のいく返答を得られて小さく手を打つ。コンタクトに変えたとか言われたらちょっと複雑だったから心の中でこっそり安堵の息を吐いた。レンズを隔てずに緑間の目を見れる人間はオレだけがいい、視界の隅に彼の黒縁眼鏡を捉えながら小さく独占欲を募らせる。

「ちなみに今はどんくらい見えねぇの?」
「オマエは黒い棒が立っているようにしか見えない」
「何ソレっ!?」
「事実だから仕方ないだろう。早く代わりに探すのだよ」

相変わらずの女王様発言をかます彼に苦笑がこぼれた。軽く返事をしながら歩みを進める。肩にからった荷物はベンチに乗せて、ついでに足元のお望みの品も拾っておいた。そのまま無言で緑間の前に立つと、見えにくそうに目を細めて不安気に頭を傾げられる。

「高尾…?」

まだしゃがんだままだったから目線はオレのほうが上だ。珍しく見上げられる体勢。眼鏡がなくて、しかも上目遣いだなんてシチュエーションなんか滅多に味わえないから、いつまでも見つめていたくなる。けれどそういうわけにもいかないのでそろそろ行動に移すことにした。


「…緑間、」
「な、ん…っ!」

誰もいない部室に健全とはいえない音が響き渡る。背徳感で背中のあたりをざわざわしたものが駆け上がった。不意打ちに見開いた深緑の瞳が愛おしい。しかし更にと貪ろうとしたところで感じた弱い抵抗。それが切れそうな理性をかろうじて繋ぎとめてくれた。名残惜しくも唇を離し、そっと眼鏡をかけてひたりと視線を合わせる。


「今は、見える?」



目の前の顔が真っ赤に染まっていくのに笑みが抑えられない。数秒後に殴られることはほぼ確定してもオレは十分に満足だ。だって緑間のこんなに可愛い姿を見れたんだから。

まあでも、口聞いてくれなくなったりしたら困るけど、ね。



煽情
もう、たまらない




10*02*28



スケダンの椿がかわいかったのでみどりんにもド近眼になってもらいました。クラスは別設定。しかしおまいら人来ても知らんぞ。


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