前から回ってきたプリントを一枚受け取って後ろに回して内容を確認する。と同時に、高尾は眉をひそめた。

(進路希望調査…って、さすがに早過ぎねえ?)

いつかは決めなければならないものだが、まさかこんなに早く聞かれるものだと思っていなかったらしい。彼の周囲からも同じような反応が見受けられる。高尾はがしがしと頭をかきながら、来週の月曜提出なーという担任の声に重なったチャイムを聞き流し、くるりと斜め後ろを向いた。

「真ちゃーん」

どうやら一時思考を停止するらしい。高校に入学してから始終一緒にいる…もとい、始終付き纏っている緑間のところへ向かうと、机の上に折り畳んだ両腕に顎をのせて彼のことを見上げる。視線で用を問われていることを察し、高尾は口を開いた。

「高一から進路のこと考えるなんて早過ぎねえ?」
「二年から文理でわかれるからな、仕方あるまい」
「うへー…せーっかく高校受験終わったのによー。もう大学考えろってか」
「オマエが秀徳に受かったことがいまだにオレは信じられんが」
「ぎゃはは、ひっでー!」

辛辣な言葉に高尾はけらけらと笑い、緑間の冷たい眼差しを受ける。そのことを気にしたふうもなく、彼はまた言葉を紡ぐ。

「で、緑間はどうするか決めてんの?」
「当然なのだよ、文系だ」
「へっ?数理得意なんに理系じゃねえんだ?」
「法学部志望だからな」
「はあっ?」
「……さっきからいったいなんなのだよ」

質問攻めに緑間が辟易していてもお構いなしだ。はぐらかしたら更にしつこく聞いてくることを短い付き合いでわかっている緑間は、苛々を感じながらも真意を問う。

「プロ、行かねえの?」

それは些か彼の予想の斜め上を言っていたが。

「なに、を…言ってい、る」
「いや、だって緑間ぐらい上手かったらプロでも通用すんじゃねえの?」
「そ、んなの…」

動揺を隠しきれぬまま、緑間は脳裏にかつてのチームメイトの姿を描く。いつかの夢も、奥の奥に仕舞った引き出しの中から、引っ張り出す。

「アイツらを、見てから言え」

けれども、深く長い吐息に、それは容易に消え去ってしまう。伏せた睫毛が小さく震えた。

いつもと違う弱々しげな緑間の様子に高尾が気付かないはずもなく、寂しげに瞳を揺らす。このままほっといてはいけない、そう感じた。自らから視線を逸らそうとする緑間の深緑の眼にひたりと照準を合わせる。

「…確かにキセキの世代のヤツらはさ、オレの基準で計っちゃいけないほどすげえよ。こっちじゃ生かせる長身も、プロ行きゃ埋もれちまうこともわかってる」
「……」
「ホントーに法律の勉強したいならなんも言わねえけど、でもまだ夢見てんなら諦めんのは早過ぎると思うぜ。運命とか言ったらはったたくかんな?いつもの自信はどこ行った。たった数ヶ月の努力でシュートレンジ二倍にしたヤツはオマエだろ?」

だから最初から決めつけんな。オレに不可能なことはないとでも言っとけ。

いいな?と指を差されて緑間は苦笑をこぼす。少しだけ気持ちが軽くなった気がした。

「どれだけ自信過剰なのだよ、オレは」

緑間に目を細めて見つめられ、その瞳に陰りが見受けられないことに気付いて高尾は口を笑みの形に象った。

「自信過剰でいーんだよ」
「そうか」
「そうなの」

いつまでも過去に囚われる緑間が、少しでも未来に目を向けてくれたことに喜びを感じながら立ち上がる。ずっとしゃがんでいたせいか、足が痺れているようだ。不快な感覚を覚えるが、それでも高尾は嬉しかった。

「そんじゃまーオレも文系にしときますかね」
「せいぜい落第しないよう祈っててやるのだよ」
「ふはっサンキュ」

キセキの世代の名は重いけど、これからは少しずつその重荷を分けてくれるといい。そんなことを考えながら、高尾は自分の席に腰を下ろした。


(あ、そうだ真ちゃん。オレの夢はおは朝の占いを読み上げるアナウンサーになることだかんな!)
(ふざけるなオマエの声を毎日聞くなど冗談じゃない)
(またまた〜照れちゃって〜)



叶えるために人事を尽くせ!


10*2*21


長く書いといてあれですが、書きたかったのは最後のかっこという…何故こんな話に?

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