「高尾、これをやるのだよ」
「ん?」

いつも通りの上から目線で緑間が話しかけてきた。あげるじゃなくてやるなところがコイツらしくてすごくいいと思う、そんなことを思いながら寄越してきた薄緑の袋に視線を移す。

「なにこれ。ラッキーアイテムかなんか?」
「違う」
「……?」

オレの中で最も高かった可能性が消えた。最初に浮かんだものは真っ先に心の片隅に追いやっている。たとえ今日が男女共に浮足立つ日だと言っても、目の前の彼がそんな行事に参加するヤツとは思えない。もうすぐバレンタインだなと言ったら、あの宣教師の命日か、とか返してきたときにそんな希望はばっさりと切り捨てた。ちなみにホワイトデーはただの企業の利益向上のための口実だろうと返してくる気がする。てかもう絶対そうだ。甘い展開なんか期待しちゃいけない。

なんて言い聞かせてたんだけ、ど。

「もしかしてさ、」

やっぱり、一縷の望みにかけちゃったりして。

「チョコだったりする…?」


「なわけないだろう」
「ですよねー」

ちょっと視界が霞んでる気がするのは気のせいにきまってる。そう信じさせてほしい。予想していた言葉に予想以上に衝撃くらった。ちくしょうリア充見かけたら全力で不幸願ってやる。今日という日ですらデレ見せてもらえないオレのことも考えろっての。

延々と脳内で愚痴っていたかったが、怪訝そうな視線に袋から視線を戻す。少しだけ不機嫌そうな緑間がそこにはいた。

「なぜ開けないのだよ」
「へっ開けていいの?」
「普通プレゼントをもらったらその場で開けるものではないのか」
「確かにそうだけど…って、は?プレゼント?」

ますますわけがわからない。コイツが人に物をあげるなんてこと滅多にないし、チョコ以外に今日もらうプレゼントなんてないはずだ。少なくとも誕生日なんかじゃない。

またもや思考に沈み出す脳みそにストップをかけて、とりあえず包装を開けてみることにした。茶色の紐を解くだけだからそれは簡単に開けることができる。なぜだか緑間が落ち着かなさげにしていたが、今は手の中のものに集中しようと決めた。

ほどなくして現れたのは黄土色の平ぺったい物体。所々に黒の斑点が広がり、一片に分けたときのクローバーの葉の形に…まあ、簡単に言えばハート型を象っている。

「……緑間」
「…なんだ」
「オマエ、最高」
「……知らなかったのか」
「ぶはっマジ最高だわ!」

こらえきれなくなって爆笑すると、緑間の眉間の皺が更に寄っていくのがわかる。それでも笑うのをやめられない。さすがにこれは予想の上を行き過ぎていた。

「バレンタインに煎餅とかはじめて聞いたわ!も、真ちゃん最高!だいすき!!」
「うるさい!それに勘違いするな!別にバレンタインだから買ったわけではないのだよ!たまたま買ってみただけだ…!」

そっかーと返しつつも、顔のにやけがとまらない。最大級のデレ発動に嬉しい顔をするなというほうが無理だ。表情を崩さない努力はとっくに諦めている。羨む必要などこれっぽちも見当たらない、オレだって相当なリア充だった。

ともかく笑いの発作が治まったら、抱き寄せてキスをしようと思う。きっとオマエの顔が、もっと赤く染まるだろうから。




福製造機
オマエほどの幸せをオレは知らない


10*2*14


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