『え、緑間君って今日が誕生日なんですか』
『そうなのだよ』
『あ、だから今日ちょっと機嫌よかったんスか。もー教えてくれたらなんか用意したのに…』
『んあーじゃあ帰りにおしるこでも奢ってやるよ…割り勘で』
『割り勘スか!?』
『それなら数十円で済んでお財布に優しいですね』
『黒子っちまで!?』
『別に無理に祝うことないのだよ。…というか祝う気ないだろうオマエら』
『ははっ冗談だって。なんならどっか食べ行くか?ファミレスで小さいケーキぐらいなら…黄瀬が出すし』
『へっ!?』
『ボク、赤司君とキャプテンにも声かけてきます』
『おっ。頼んだぜ、テツ。てかこれ恒例行事にするとかどうよ?みんなで祝うの楽しそうじゃね?』
『…人を財布扱いしてくれたのはアレっスけど、それはいい案っスね』
『まあ、青峰にしてはいいことを言うな』
『だろー?』


−…だからさ、全員誕生日教えろよ。コレ、約束な










ぱちり、ぱちり。瞬きを二回。
あまり回らない頭を起こし、ぐるりと辺りを見渡す。ハンガーに掛かった誠凛の制服を目にしたところで、さっきまでのやり取りが夢だったことに気付いた。やけに鮮明だったせいで、瞼の裏にこびりついて忘れられそうにない。

約束は、果たされなかった。

みんなで誕生日を祝ったのは、後にも先にもあの時だけだ。あの後すぐに青峰君が部活に顔を出すことが減り、誰かの誕生日がきても、軽く流されて終わっていった。言い出した彼がいないんじゃ意味がない。そもそもみんなでという約束だったのだが、積極的に集まる気は、そのとき誰も持ち合わせていなかった。

時刻を確かめるために見た時計は、1月31日を示している。家族以外にはキセキのみんなしか知らない誕生日、誰かに祝ってもらえるなんて思えないから自分で自分にプレゼントでも買おうか。気になっていた本を買うことにして、ぐっと力を入れて立ち上がる。急いで支度をしなきゃいけない。時計の針はいつもよりも先に進んでいた。










はあっと息をついて鞄をからいなおす。いつもより遅い集合時間のおかげで、朝練にはなんとか間に合いそうだった。もうみんな集まっているらしい。がやがやと話声が聞こえる。まだ少し薄暗い中、煌々とした光を漏らす体育館の扉に手をかけた。ら、






「ハッピーバースデー黒子!!!!!!」





盛大なお出迎えを受けた。なにがなんだかわからなくて声が出ない。よかったー今度はあってたという声が聞こえる。てことは一度は間違えたんですか。じゃなくて。

「な、んで…?」

誕生日のことなんて言った覚えがない。どうして祝われているかわからずに呆けた声を出してしまう。

「ふふっ私に隠し事しようなんて百年早いわ!」
「何言ってんだカントク」
「そーだよ知らなかったじゃん」
「うっ!」

先輩方の声を遠くに聞きながら疑問符を浮かべていると、隣にやってきた大きな影。

「…かがみくん」

おめっとさんと言われて差し出された携帯を礼を言って受け取れば、送り主のところに見慣れた名前が載っていた。

『From 黄瀬涼太
件 1月31日は

黒子っちの誕生日っスからね!ちゃんと祝わないと「っち」付けて呼んでやんないっスよ!』

本文を読んでやっとこの状況を理解する。彼らしい優しさに小さく口の端が緩む。

「はっきり言って、あの呼び方やめてくれたほうがせーせーするけど…他でもないオマエの生まれた日だから、な」

目を逸らしながらぼそぼそとそう告げる火神君の姿にもっと嬉しさが募った。

「ほらっそこ、二人だけでいい雰囲気になるな」
「ちょっ伊月センパっ…何言ってんだ、すか!」
「火神真っ赤ー!ま、今はみんなで祝わせてよ!オレら作のケーキもあんだぜ、なー?」
「…(コクリ)」
「ほとんど水戸部が作ったんだけどね」
「私は文字を書いたわ!」
「それ作ったって言わねーって」
「てかこれなんて書いてんだ?」

なによー!というカントクの抗議の声にみんなの笑い声が重なる。どうしようもなく嬉しくて、たまらなくて、上手く表情を作ることができない。笑いたいのに、泣きそうだった。

「ありがとう、ございます…!」

揺れる視界に笑顔が映る。隣から伸びてきた腕に力強く頭を撫でられて、床に一粒水滴がはねたのが見えた。



げよう
君に笑ってて欲しいから


10*1*31


本当はキセキも登場させるつもりだったんですが、力尽きました。

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