「オマエ、誰だよそれ?」

ふと覗き込んだ黄瀬の待受に、思わず笠松はツッコミをいれてしまった。途端に返ってきたうざいほどの笑顔に、数秒前の発言を後悔するがもう遅い。語尾にハートマークがついているような声音で返事が返ってきた。

「黒子っちスよ〜。も、むっちゃかわいいっスよね!」
「……はあ?」

だが笠松は間の抜けた疑問しか返すことができない。黄瀬の携帯に表示されている人物と彼女いわく透明少女をイコールで結ぶことができなかったらしい。

「だから黒子っちですってば!」
「……いやいやいや」
「ちょっセンパイ!なんでそんな否定するんスか〜」
「いやだって、なあ。まずなんでネギなんか持ってんだ?」
「コスプレだからっスよ」
「は?」
「コスプレ」

聞き慣れない言葉に笠松は再度思考を止める。バスケ一筋で生きてきた彼女には、それは少々濃い世界だったようだ。頭の中がひどく混乱していた。

「…ミスディレの仲間か?」
「わあああセンパイ、戻ってきてください…!コスチュームプレイの略っス!」










黄瀬によって未知の世界への扉を開いた笠松は、自分を落ち着かせるために咳ばらいをひとつ。まずは得た情報を処理することに決めた。

「えっと?オマエの旧友二人はこ、こすぷれとかいうのをやってて?」
「はいっス」
「写真をくれるという条件の元でオマエが衣装代を出資をしていると?」
「はいっス!」

初めて知る事実に笠松はどっと疲れたように感じた。要領を得ない黄瀬の説明だったせいでその気持ちはさらに増大している。とりあえず、何故説明するのにあんなにかわいいを連呼しなければならないのかと湧いてきた苛々を吐き出すことにした。

「死ね!」
「うえええ!?」

眉根を下げ、だうーと涙を流す黄瀬の姿に満足して、苛々は無視することに決める。笠松は、コイツの黒子好きは元からだ、気にしても仕方ないと自分に言い聞かせた。

「冗談だよ」
「ええ、まじっスか!?そのわりにすっげー本気っぽく聞こえたんスけど!」
「るせー。冗談なもんは冗談だ。ああでもひとつ、」
「な、なんスか…?」
「待受は変えろよ?」

身構える黄瀬にくすりと笑う笠松。いくら仕方ないと割り切ったとはいえ、仮にも恋人の待受が他の女っていうのはおもしろくない。その思いを読み取ったのか、呆けた顔を見せていた黄瀬は喜色をあらわにした。

「じゃあセンパイの写真撮っていいっスか!?」

ふざけんな却下だ、と真っ赤になった笠松に即行で沈められていたが、本人が幸せそうなのでまあよしとしよう。



(でもかわいかったな、黒子。今度写真もらうか)


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