黒子は人目をはばかるようにしてシュート練習をする。そのことに気付いたのは、つい最近のことだった。












早朝のロードワーク中に、ふと思いたって、いつもと違うコースを走ってみたときがある。いつもは通らない、ストリートのコートを横目に走り去ろうとして、ゴールに向かうボールの存在を目にして足を止めた。誰かが練習しているらしい。


(朝っぱらからよくやるなー…って黒子っ!?)

予想もしない人物が視界に映り、驚きに目を見開く。ボールがリングに当たって跳ね返る音が遠くに聞こえた。


何故か、声が出せない。


しんと静まり返った世界の中、響くのはボールが跳ねる音だけ。清澄な空気に自分の吐息が溶けて消えた。



『パスしか、できないんです』


いつかの彼の言葉を思い出す。その時は何言ってんだと頭をはたいたが、今になってあの寂しげな顔が脳裏によぎる。


四回目。シュートはまだ入らない。


フリースローラインに合わせた足が震えているように見えるのは気のせいか。
やっと正常な機能を取り戻した声帯を振るわせて彼の名を呼びそうになるが、なんとか思いとどまる。無理すんなと言って頭を撫でれば、きっと震えは止まるのだろう。でもそのかわりに悲しげな表情を見ることになる。そんな、気がした。


六回目。鈍い音を幾度かたてて、それでもネットをくぐらずにボールは落ちる。


気付けば、あの震えはいつの間にか止まっていた。
しっかりと地面を踏み締める様子に満足して、今日の朝練でシュート練に誘おうと決める。己を影だと言い張る黒子が、自分でもシュートを決めたいと思っていることを知って、なんだか至極嬉しかった。


きらりと
オマエだって、そんな光だ



10*01*31

−−−−−

黒子と誠凛の誰か。
CPなしの話がときどき書きたくなる。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -