※ひとによっては気持ち悪い?かも。ちょっと注意

 さっきからこの部屋にはぴちゃぴちゃとはしたない音とわたしたちの荒い息しか響いてない。もう、どれぐらいそうしているかもわからない。5分経ったのか、10分経ったのか、はたまた1分くらいなのか。ぼやけた思考をそんな風に巡らせていたら、依都に舌を少し強めに噛まれた。集中しろってか。
 その、長いようで短く、短いようで長い時間を先ほどからこうして互いの唇と、舌と、唾液と、呼吸とを重ね合わせてひたすらに貪りあう愚行を続けているわけだけど、わたしの腰はもうすっかり使いものにならなくなっていて、彼の支えなしにはきっと立っていられないと思う。いっそのことベッドでも、いや、もうこの際この玄関でもいいからとっとと組み敷いてくれたほうが楽なのに。それに身長的に依都が腰を頑張って曲げなきゃいけないこの体勢は30を目前としたオニイサンにはお辛いのでは?そう案ずるのだけれど、彼はそんなわたしの気遣いなどお構いなしに、少しでもこちらの体が離れれば許さないと言いたげにわたしの腰を抱きかかえるものだから、わたしたちの体は再びぴたりとくっつきあう。隙間なんてほとんどないくらいに。…どうやら彼は今日は立ってキスをしていたい気分らしい。よおくわかった。

「ん、よ、りと」
「ん〜?」
「ちょ、とまって、くちふやけそう」
「んん?大丈夫だよ〜。ふやけても、俺は好きだからさ」
「そういうことじゃ、ぁ、んんぅっ」

 こういうキスは不慣れだといえるほど初心なわけではないけれど、さすがにこうもずうっとしてたら苦しいしちょっと休憩を挟みたいというか。キスするのに休憩なんて、雰囲気もくそもあったもんじゃないけど。取り敢えず酸素をもう少し体内に取り込みたくて、顔を逸らして彼の唇から逃げる。本当にふやけちゃいそう。キスしすぎて唇が腫れるとか、あるのかな。しつこく顔を近づけてくる依都を片手で押しのけつつ、そんなことを考えていた。

「ちょっと、いつまで休憩してんの。俺まだ満足してないんですけど〜」
「も、もうちょっと待ってよ…っあ、こら、ぁ!」
「ん〜はやくう〜」

 大きく肺を膨らませながらお互いの唾液でべたべたになっていた口元を手の甲で拭っていると、待ちかねた依都がにやにやと厭らしい笑みを浮かべながらわたしの掌に舌を這わせてきた。突然の刺激に思考が蕩けそうになるけどそれをなんとか堪えて、掌の皺を舌でなぞっている男を再び押しのけようとあいてる手を彼の額に押し当てた。すると、今度はターゲットが抵抗する手に向けられた。手首をがしりと掴まれ、掌から指先にかけてつうっと舌先が滑り、とどめに指をしゃぶってくる。想像以上にいやらしい光景と手から伝わる刺激に、背筋がぞくぞくとして、子鹿のように情けなく足が震えた。慌てて依都の体にしがみつけば、頭上からくすくすと笑う声。く、くそう。やられた。

「はは、か〜わい」
「う、うっさい」
「ちょおっと手舐めただけで俺にしがみついちゃうんだもんな〜」
「うるさいってば!」
「いいじゃん別に。恥ずかしがることないって」

 『可愛いんだしさ。な?』と首を傾げてわたしの額と両頬にちゅ、と可愛いキスをする。散々ディープキスしてたからかわからないけど、逆にこういう可愛らしいキスをされるとそれはそれでちょっと恥ずかしい。もう恥ずかしさを感じるポイントが自分でもよくわからなくなってきてる。こっぱずかしさとなんだか丸め込まれたような感じに少しむっとしながら眉間に皺を寄せると、それを伸ばすようにぐりぐりと彼の人差し指が押し当てられ、ふふっとまたしても笑われた。機嫌がよさそうだ。

「可愛い」
「どこが」
「そういうところだよ」
「そういうところ?」
「そう。俺に可愛いって言われて本当は嬉しいのに素直に喜べないところとかね」
「な、なにいってんのばかじゃないの」

 今日の依都はなんか変だ。優しいっていうか、いやいつも優しくないわけではないけれど、甘やかし方が過剰っていうか。どう反応していいかわからず困って変になっているだろう顔を見られないように彼の胸にぴったりとほっぺをくっつけていると、これまたいつも以上に甘い声で名前を呼ばれる。じわじわと嬉しさが身体中にしみていくのを感じていると、後頭部にまわされていた手に上を向くようにやんわりと促され、素直に顔を上げた。…やっぱりなんかいつもより雰囲気が甘いというか、なんていうんだろうな……ああいやだ、かっこいい。中途半端な思考であれば簡単に放棄させてしまうほどの色気に侵食されていく。目を逸らしたいのに逸らせない。釘付けってこういうことか。

「…ねえ、あーんしてよ」
「?」
「いいからほら、はやく。あーん」
「な、なんでよ」
「なに、俺の言うこと聞けないの?」
「………きける」
「じゃ、ほら。口開けて」
「んん…、あー…?」

 愚かに、従順に、雛鳥のように口を開けて待つわたしに与えられたのは彼の唾液だった。ディープキスの過程で飲んでしまうならまだしも、こうしてまざまざとそれを分け与える光景を見せつけられると、途端にカッと顔が熱くなる。人の唾液なんて飲もうなんて普通、思わないけれど…だけど、不思議と依都のだったらいい、寧ろほしいだなんて、そんな思考すら浮かんでくる。依都の赤い舌から零れ落ちてくるそれを、熱に浮かされたわたしはまるでいつもそうしているかのようになんの戸惑いもなく自らの舌を伸ばして受けとめ、嚥下した。なぜか褒美をもらったような、満ち足りた気分だった。躾けられてるなあ、わたし。

「おいし?」
「ん、ん、」
「はは、よかった。じゃあ今度は俺にもちょうだい、」

 そう言って依都は屈んで、わたしを見上げたかと思うとすぐに急かすように唇を何度も押し付けてくる。それを制止すべく彼の両頬を手で挟んで固定すれば、嬉しそうに歪んだ口の中にちらちらと揺らめく赤い舌。恥じらいを感じながらも、依都がしたようにその赤の上に自分のものを垂らしていった。

「ん〜」
「…満足した?」
「まあまあかな〜。もっと、ってカンジ」
「ぅ、!」

 いきなり依都の指が口の中にはいってきたかと思えば人差し指と中指で舌をべ、と引き出されそれに貪りつかれた。聞くに堪えないきったない音をだしながらわたしの舌を吸い上げて、舐めて、甘噛みして、また吸って。言うまでもなくわたしの口元も手も唾液塗れで、よく見たらわたしのシャツにも垂れたようなシミが出来ている。まるで赤ちゃんみたいじゃない、はしたないな。

20150720 恥
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -