※少ない情報で書いているので捏造だらけ注意


 まるで自分が食べ物かなにかになったような気分だった。
 行為が終わりぐったりとベッドに沈むわたしの眠りを妨げて、そんなことを思わせるのはさっきまで散々わたしをいじめ抜いたオトコただ一人しかいなかった。耳、首、二の腕、肩、背中、胸、お腹、内腿、その他もろもろ。いろんなところを舐められ、あむあむと噛まれ、やめてと言っても楽しそうに笑うだけで一向にやめてもらえる気配はない。困ったなあ、あんまり動きたくないんだけど。仕方なく気だるい体を動かし、抵抗するためにぴょんぴょこと好き勝手跳ねている彼の髪に手を置いてぐっと押し返してみるものの、今度はその手をとってべろべろ舐め始めた。埒が明かない。

「ちょっと、なんなの」
「んっ、ん〜んっ?ふふっ」
「ぁっ、やだ、」

 わたしの目をじぃっと見つめながら、わたしの指にいやらしく舌を巻きつけ、わたしの反応を楽しむこの男は、言うまでもなく性格が悪い。悪いどころではない、最悪だ。なんとか腕を引いて彼の口から指を引き抜くことに成功はしたけど、逃げるそれを追うように出された赤い舌とわたしの指先の間を、きらりと光るねばついた糸が繋いでいた光景を見るハメになる。やだ、なんか恥ずかしい。さっきまでもっと恥ずかしいことをしていたはずなのに、で少しだけ顔が熱くなった。こんなことで照れるなんて、あれ、わたし案外まだ生娘設定でもいけるのかもしれない。

「あはっ!顔まっかだねぇ〜?」
「う、うるさいな」
「あ〜でもぉ、僕とシてるときの方がもぉっと赤いかなぁ」
「だからうるさいってば」
「あ〜あ拗ねちゃったぁ〜?」

 うるさい。この男、ほんとうるさい。こっちは疲れて眠たいっていうのに。
 ちょっとだけイラッとしながら夕星の唾液でべたべたの手をシーツで拭いて、彼に背を向ける。本当はべたべたなのは手だけじゃないんだけど、今日はもう疲れたから動きたくない。この人とのソレは非常に疲れるのだ、ねちっこいし。いつもわたしはへとへとになってしまう、もちろん今日だって。(そりゃもちろん気持ちいいんですけど)
 手繰り寄せた枕に顔を埋めながら目を瞑ると、よいしょぉ〜と全然よいしょ感のない声とともにおなかに手が回り、肩にぬるい吐息を感じた。…今日はやたら引っ付いてくるなあなんて思っていると、またしても噛まれる感触と、それからぢゅぅと可愛くない音が耳元で響く。それと同時に肩に走った小さな痛みはきっと強く吸われたときのものだ。キスマークなんて、いっつもつけないクセに。

「んっ…、ねえ、わたし食べ物じゃないんだけど」
「え〜?ちがうのぉ?」
「ちがうでしょ」
「でもぉ、お前やわらかくてきもちいんだもん」
「女の子ってだいたいみんなそうでしょ」
「そうだけどぉ、なまえちゃんは他のコよりきもちいんだよぉ」
「…それ、わたしがデブってこと?」
「はぁ?…あーめんどくさ。いちいち言い返すなよ」
「おーコワ。でたよ素のゆうせ…って痛ッ!くっそ、」
「いーんだよ僕がきもちいって言ってんだからそれで」

 ごちゃごちゃ言うなうざい。
 そう言って犬歯をわたしの肩に突き立てながら、夕星の中身が姿を現した。初めてこれを見たときはめちゃくちゃビビッて泣きそうになったこともあったけど(何回か本当に泣いたかもしれない)、いまはもう慣れたし、そこそこ対応もできる。これくらいじゃあ怯まない。『はいはいごめんなさい、わたしが他のコより柔らかくてきもちーです。』と、適当に謝りながら頭をぽんぽんと撫でると盛大な舌打ちとともにまたしても下品な音を立てて、噛まれていたそこを強い力で吸われた。またキスマークつけたな…別につけられて困るものでもないからいいけど。こっそりと溜息を吐くと、かぷかぷと二の腕のあたりを甘噛みしていた夕星がね〜え?とさっきの苛立ちなど微塵も感じさせないいつもの営業猫撫で声で、甘えるように擦り寄ってくる。

「んー?」
「ねぇ、こっち向いてよぉ〜?」
「ねむい」
「向けって」
「はいはいスイマセーン」
「ん、いいコ。ごほぉびあげるね〜はいっ、ちゅ〜う!」
「ちゅ〜…んんっ、」

 後ろから身を乗り出すようにのしかかってきた夕星は少しだけ顔を反らしたわたしの顔を両手で固定し、舌でべろべろと唇を舐めまわし、歯を舐め、歯茎を擽り、舌先を突いて自分のと絡ませた。顔を挟んでいた手でわざわざ耳を塞いでぐちゅぐちゅと唾液が掻き混ぜられる音を頭の中に響かせてくるあたり、本当に性格が悪い。舌だけでなくいつの間にか指までいれてきて、逃げ惑うわたしの舌を捕まえてぐにぐにと指先で押したり、つまんで、引っ張って、息を荒くしながら唾液を口の端から零すわたしをはしたなぁ〜いと至極愉しそうに笑う。そして散々弄んだ挙句、最後は引っ張り出したわたしの舌にまるでご馳走にでもありつくかのようにしゃぶりつくのだ。はしたないのはどっちだ、と思いもするけど事実わたしもはしたない声をあげているわけで、彼の言葉を否定することは到底出来ない。

「っはぁ、うう…しつこ…」
「えぇ〜?いいじゃん別にぃ」
「よくないよ、苦しいもん」
「でもでもぉ、なまえちゃんきもちよさそーだったしぃ?」
「…なに、わたしのためにサービスしてくれたの?」
「そぉそぉ、サービスだよぉ〜。他のコにはこんなちゅうしてあげないんだからねぇ〜」
「わたしだけなんだ?」
「そぉだよぉ〜うれしい?」
「ん、嬉しいかもね」
「んふふっ!かぁわいい〜」

 わたしの口の端から垂れたままだった唾液を親指で拭ってくれた夕星は、シーツに散らばっている髪を一房掬って唾液を拭ったのとは違う指に巻き付けて遊んでいた。なんとなく、今ならいける気がしてわたしも彼の髪に手を伸ばす。予想通り拒否されることなくすんなりと触れられたそれは整髪剤もなにもついてないふわふわの状態で、案外触り心地がいいことを、ほかの女の子は知っているんだろうか。

「僕ねぇ、いまゴキゲンなんだぁ」
「なんで?なんかいいことでもあった?」
「ん〜しいていうならぁ、今日のなまえちゃんがちょおえっちだったからとかぁ?」
「…そう?いつもとそんなに変わらないと思うんだけど」
「ん〜ん!もっともっとぉってぇ、おねだりいっぱぁいしてくれたしぃ?」
「い、いや、あれはその、その場の雰囲気にのまれたといいますか、」
「あっそおだ!今日は特別にぃ、僕に触らせてあげてもいいよぉ?」
「えっ、ほんと?怒んない?」
「おこんないおこんなぁい」

 夕星は基本的にセックス中以外に触られるのを嫌っていたから、行為中に散々触っていたとしても終わると途端におさわり禁止になる。夕星から触ることはあるけど、こっちから触ったらキレられる。めんどくさくなる。髪に触れるぐらいなら許容範囲みたい。(たまにダメなときもある)だけどそんなことを知らずに夕星の腕や顔にべたべた触ってキレられて泣かされた女の子は結構いるのをわたしは知っている。可哀想に…と思う反面、これに懲りたらもう近づいて来んなと思うクソみたいな自分もいる。いやだね、女の子って。
 …まあでも、そもそも普段の彼はヤるだけヤったらとっとと帰るし、今日だけだ。こんな、セックスが終わっても同じベッドの上にいて更にはべたべたくっついてきて、挙句触ってもいいなんて言うのは。これじゃあまるで恋人みたいだ。わたしたちはそんなカワイイ関係じゃないっていうのに。

「じゃあ、お言葉に甘えて、失礼しまあす」
「はぁ〜い」

 ごろんと仲良く並んで寝転んでるこの絵面、わたし的には最高に笑える。そして触ってもいいと許可をもらえたにも関わらず彼の手に触れるわたしの指先はまるで壊れ物に触れるかのように慎重なのも、なかなか笑える。女のわたしよりも細そうな手首を持ち上げて、そこに刻まれてる星の刺青をなぞった。触っていいと言われて思いついたのがそれだった。なんとなくその星をなぞりながら願い事を言えば叶いそうな気がしたからだ。もちろん実行しましたとも。夕星がもう少しまともな人間になりますように、って。何度かそうして星の形をなぞっているとくすぐったいのか、くすくすと小さく笑い声が聞こえてきた。

「ふふっなぁに?なまえちゃんも彫りたいのぉ?」
「え、いや、別に。痛そうだし。痛くなかったの?」
「あっ、ねぇ!僕イイコト思いついちゃったぁ〜!」
「ちょっと、わたしの話聞いてる?」

 わたしの話をガン無視してがばりと起き上がった夕星は数時間前までそうしていたようにわたしの上に馬乗りになって、にやにやと相変わらず愉しそうに口元を歪めながらわたしを見下ろしている。あー、悪い顔してる。夕星の思いついたイイコトなんて、どうせろくでもないことに決まってるんだ。ヘンなことに付き合わされたらやだなあと思いながらぼんやりとその整った顔を眺めていると、すっと目を細めた夕星の指が嫌な予感を感じて眉間に皺を寄せているわたしのほっぺを撫でて、唇をなぞって、そのままするすると滑り降りて鎖骨を擽り、ある一点で止まった。

「ここにぃ僕のモノだってシルシ、彫ってあげよっかぁ」

 自分のものにはちゃぁんと名前書かないといけないもんねぇ〜?
 とんとん、とその指先が叩くのは丁度心臓の上のところ。わたしは一体いつ夕星のものになったんだ?大体心臓の上に刺青彫られたらなんか、夕星と永遠を約束したみたいじゃないか。やだよ。夕星、わたしのこと絶対幸せにしてくれないもん。絶対いや。そう思いはしたけれど、それらを口にだせばどうせまた不機嫌になった素の彼にアレコレひどいことをされるに決まってる。わたしはお利口だから、そんな余計なことはしない。なにも言わずに、笑ってキスをしておくのだ。そうすれば、ほら、満足そうな顔してる。割と乱暴だし雑だしこういうちょっとチョロいところもあるけど、夕星はかっこいいし、ときどき可愛いから好き。セックスも、まあたまにアブノーマルなこともあるけど嫌いじゃない、気持ちよくさせてくれるし。でも、わたしの未来は君にはあげないよ。わたしの名前をその心臓に書いていいなら、考えてあげるけど。


20150412 星に願えば
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