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だから、彼女を殺しました。


多分あれは、僕が幼稚園の頃だったと思う。外で駆け回るよりも中で絵を描く方が好きだった当時の僕は、34色のクレヨンを持っている同じ組の男の子が羨ましかった。みんなが描いた絵を飾っても、ほかの子より断然カラフルな色使いで描いた絵はいつだって眩しく見えて、いつしか僕も34色クレヨンが欲しくなった。でもだからといって10色で充分だと思っている親が買ってくれはしないし、ましてや僕がそんな高価なものを買えるはずがない。でもどうしても34色があきらめきれなかった僕は、一回だけ彼から借りようと思った。ある日の午後、自由時間。一度だけ貸してよと頼んだ僕に対して、彼はいやだと言っていーっと不揃いな歯を見せた。お願いだから。いやだ。お願い、一回だけ。絶対いやだ。なんで?一回くらい貸してよ。いやだったらいやだ。何度言ってもいやだと小さな頭を振る彼に苛立ちが募った。けちんぼ!そう叫んで、真っ白い画用紙を真っ赤で塗り潰す。力を入れすぎて赤いクレヨンがぼきぼきと折れるのも気にせず塗る。塗る。そして、イライラをクレヨンと画用紙にぶつけても足りなかった僕は、これみよがしに34色クレヨンを広げ花の絵を描いていた彼のクレヨンを手当たり次第にわしづかみ、力ずくで折った。掌が名前の知らない色で染まり、僕たちの周りにはめちゃくちゃに折られたクレヨン。わんわんと耳障りな声で彼が泣いても僕はそれをやめなかった。掌でいろんな色が混ざり合い、しまいには黒くなっても折りつづけた。34色は予想外に多くて、結局クレヨンケースが空になるまで僕のイライラは収まらなかった。人のものを壊しちゃいけません、と新任の先生にハの字眉で怒られてもそっぽを向いた。知るか。僕に見せびらかしたあいつが悪い。もっと言えば、あのクレヨンが悪い。僕はひとつも悪くない。あのクレヨンが、僕のじゃないからいけないんだ。



犯行動機

20110427



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