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仮面の裏で、うそつきは泣く



会いに行くと、彼女はいつも外を眺めるか読書をしている。例に漏れず、今日も彼女は読書をしていた。細かい字ばかり読んで何が楽しいんだか俺らみたいな学のないやつには分からないが、彼女にとってみれば最大の娯楽らしい。

「あ、林檎林檎」

パタリと本を閉じたかと思うと鼻を効かし見舞い品を見つけ指差しむふふと笑った。林檎を剥く雰囲気が好きだと言われてから、行く度に林檎と果物ナイフを持参してしまう自分の単純さにはほとほと呆れる。今日はうさぎさんにして、彼女の唇が動いた。うさぎなんてアレだろお前、耳的なもの生やしゃいいんだろ?どうやらうさぎな気分な当の本人はわくわくしているのか落ちるんじゃないかと言うほどベッドから身を乗り出している。いや、わくわくしすぎだろゴロリもびっくりだわ。
しばらくして立派なうさぎ林檎ができた。我ながら秀作だ。シャリシャリと頬張る彼女を見ていると自然と口角が上がる。

「食べる?美味しいのにもったいないよ」

唇を動かしながら、飽きもせず食べ続ける彼女にそろそろ帰ると告げると、薬飲むまで待ってと林檎を咀嚼しながら伝えた。大丈夫だ、今日も俺は何もヘマはしていない。話し方も、仕種も、読唇術も、完璧だ。

「じゃあね、鴨太郎」

目も耳も不自由ながら、去るときだけは明るい声音で恋人の名を口にし無邪気に手を振る彼女に向けて笑う。うまく笑えているだろうか、いつもこれだけが心配でならない。見えないはずなのに、これだけが心配でならない。



うそつき仮面

20110110



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