邂逅 | ナノ
最悪だ。俺は誰に向かってでもなく呟いた。また水口にまんまと逃げられた。校門を出てすぐの商店街で上手いこと巻かれた。くそ。何度目ともしれないが、これだけは言える。やつの逃げ足の速さは異常だ。速えってレベルじゃねえぞあれウサインボルトかよ。
「悪い近藤さん、逃げられた」
「おおトシ!あちゃーまたやられたかあ!」
アッハッハと豪快に笑う近藤さんを前に奥歯を噛み締めた。あの野郎のことだ、明日学校で、「あるぇ〜?世紀の副委員長とやらのくせに女一人も満足に捕まえられなかったんですかぁ?あるぇ〜?」とかなんとか言ってねちねちと攻撃してくるに違いねえ。もう一度言う、最悪だ。
「まあトシ、そんなときもあるさ」
「今年に入ってもう7回目でさァ」
取り逃がすの、とサディスティックな笑みを浮かべながら足を組む総悟を睨むと、してやったりというような表情をされた。更に怒りのボルテージが上がる。何でそういうのだけはきっちり数えてんだよ!
「なら総悟、今度はお前が追っかけろよ」
「俺に女のケツ追いかける趣味はありやせんぜ、土方さんじゃあるまいし」
「てっめえこの、」
「まあまあまあ!繭子ちゃんはまたこの次来てもらえば、ね!帰りのHR終わったあとみんなで拘束してむりくり連れてくれば、ね!」
「拘束ですかィそりゃあ良い」
「おいてめ総悟何考えてんだちぎるぞ」
「土方さんこそ何考えてんですかィ思春期そうな顔して」
「あーもうキレた俺キレたぞ総悟俺はキレたぞキレまくったぞ」
毎回恒例みたいな感じになっちゃった感が否めない総悟との乱闘、イコール委員会の帰り、普段は通らない公園を通った。ほんの気まぐれだ。公園にはまだガキがまばらにいて、各々楽しそうに遊んでいる。砂場でわけ分からん建物作ってる幼稚園児やら、ジャングルジムで跳ね回る幼稚園児やら、ベンチに座ってまどろむ女子高、生、
「え?」
いやいやそんなはずはない。いやいや、いやいやまさか。こんなところにあいつが、ウサインボルトの逃げ足を持つ水口がいるはずがない。
「おい、」
試しにその水口(仮)とおぼしき女子高生の前に立ち、肩を叩いてみる。返事はない。
「水口、」
「えっ土方?」
「うおお!おまっ!急に起きんじゃねえよびっくりすんだろうが!起きる前に、起きますとか、起きるよとか、何とか言えやコラ!」
「土方何でここにいんの」
何をそんなに詰め込んでいるのか重量感のあるリュックサックを膝に乗せて睡眠体制だった水口がいきなり立ち上がる。その顔は怪訝そうであり、どこか迷惑そうだ。間違いなく寝起きの顔ではない。
「お前がサボった委員会の帰り」
「…ああ、お疲れ!」
「お疲れ!じゃねえよ!本当ならお前も疲れんだよ!何サボってここで幼稚園児に混じってくつろいでんだ!」
「いやくつろいでないしちょっと考えごとしてただけだし全然もう少しで寝そうだったとかじゃないし」
おもくそ目泳いでんじゃねえか!と叫べば砂場で謎のオブジェを制作していたガキ二匹が泣きながら散って行った。だからガキは苦手だ。あーあ怖がって逃げちゃった、と水口が呟いてチッチッチッと舌を鳴らした。いや、それで来んの猫ぐらいだから。
「次の委員会は行くよ」
「本当かよ、頼むぞ」
「うん、次は絶対行く。土方が一週間わたしの下僕になってくれたらって条件付きだけどドMの土方くんはまあ喜んで了承するとして、」
「いや了承しねえしドMでもねえから」
「まあとりあえずわたしをわたしんちまで送りたまえよ土方くん」
「お前んち知らねえよ」
人の話を聞いているのかいないのか(多分後者)、水口はよっこらせ、と年寄りくさくリュックサックを背負い、こっちこっちと手招きした。…マジでお前んちまで行けってか。
かえる
20111006