朝練が終わってくたくたになって教室に帰ってきた。「今日はいい天気で気持ちいいね」と小湊くんが言うけど、太陽が眩しくて少し鬱陶しい。今日も僕、避けられちゃうのかな。そんな考えが頭を過ぎって気分が晴れずに席につこうとすると、苗字さんがこちらに歩いてきた。ずかずかと、こちらを見ずに。



「ふ、降谷くんおはよう!」

「……お…おはよう」

「今日はいい天気だね!今日一緒に帰ろう!」



苗字さんは勢いよくそう言った。と同時にがばっと顔をあげた。頬を赤くして、何かやりきった、といった顔をしていた。三日ぶりに声をかけられたのと、言われた内容がおかしくて驚いた。いい天気って、なに小湊くんと同じこと言ってるの。



「苗字さん」

「な、なに」

「僕寮だから一緒には帰れない」



僕が呼ぶと苗字さんはぐるんと振り返った。目をしばしばさせる。そして僕の言葉を理解したのか、すぐに慌てたように「あっ、ごめん」と言った。謝らなくてもいいのに。でも二人の時間とか、あったらいいななんて思って僕からも提案してみようと思った。



「じゃあ、一緒にごはん食べよう」

「う、うん。あっ中庭で食べる?」

「僕…食堂だよ。寮だからお弁当とかないし」



あ…とまた変な空気になってしまった。苗字さんは実家暮らしだからお弁当を持ってきているけれど、僕も小湊くんも寮だからお弁当なんかあるはずもなく食堂でいつもごはんを食べている。ここまで僕の寮生活が邪魔をしてくるのかと、なんだかガッカリしたが、ここでへこたれているようではいけない。どうしたらいいのだろうと考えたら急に眠気が襲った。



「あ…じゃあさ」

「?」

「明日から私が降谷くんのお弁当も作ってくるよ」

「えっ…いいの」

「うん。私いつも自分の作るのを、もうひとつ作ればいいだけだから」

「本当に?ありがとう」

「ううん、味は保証できないけど、それでいいなら」



嬉しいなんてもんじゃない。明日から苗字さんのお弁当が毎日食べられるし、しかも中庭で二人で、なんて考えると嬉しくて仕方がなかった。お昼に食堂に行かなくなったら先輩たちに怪しがられるだろうけど、そんなの関係ない。グラウンド百周できそうな気分だ。



「よかったね、降谷くん」

「って、春市くん聞いてたの!?」

「うん。僕も、降谷くんと名前ちゃんが付き合うだなんて嬉しくて興味津々だもん」

「あんまり盗み聞きしないで…」

「も、もうしないよ。降谷くん怒らないで」



別に怒ってないんだけど。小湊くんの言葉に苗字さんは照れてて、なんか嬉しいなあだなんて思った。僕は苗字さんと付き合えることになったんだな。