「名前ちゃん、おめでとう」

「えっ、あ、ありがとう」



春市くんがにこにこと笑顔で言うので、私は挙動不審になってしまった。何がおめでとうなのか、言われないでもわかった。最近おめでとうと言われる出来事はひとつしかない。私が降谷くんと付き合い始めたらしいことだった。らしい、と言うのも、あまりに現実味がないからだ。私は降谷くんの彼女なんだ、降谷くんは私の彼氏なんだ。何度自分に言い聞かせても、どうにも他人事のように思えた。そんなことってあり得るのか、と未だに信じがたい。



「上手くいってるの?」

「う、うん…」

「わかりやすいね、名前ちゃん…」



私の答えを聞いて春市くんは苦笑いした。私もつられて苦笑いする。どうやら、春市くんは知っているらしかった。あれから降谷くんとまともに顔を合わせていない。告白された次の日、降谷くんにおはようと挨拶されたが、どんな顔をしていいかわからず俯いて小さく返しただけだった。そこからお互いギクシャクしていた。いや、私がしているだけかもしれないが。



「どうしたの」

「どう接したらいいかわからないんだ…」

「いつも普通に話してたのに?」

「なんか…降谷くんって意外とかっこいいの…正直今まで降谷くんを男の子として見たことなかったんだけど…急に意識し始めちゃって…」



いつも思うのだが、春市くんは不思議な力を持っている。雰囲気が優しいからかな、何でも話せる気になるのだ。実際そうだった。降谷くんを彼氏だと思うと、胸が苦しくなるほど心臓がどきどきした。そうやって見ると降谷くんはかっこいい。成績は悪いけど野球は上手いし、端正な顔立ちをしているし背も高いし色も白いし…こんな人が彼氏って、と信じられなかった。



「そんなこと思ってたんだ」

「うん…」

「ゆっくり慣れればいいんじゃない。それに、正直に話したら降谷くん喜ぶと思うよ」



春市くんは微笑みながら言った。かわいい、小さなお花みたいな人だと思った。春市くんが小さく私の肩を叩く。不思議と降谷くんの顔が見たいと思った。