夕飯を食べていると、降谷くんが「ちょっと」といつものトーンで言った。相変わらずご飯を残しそうになっていて、生姜焼きを箸先で弄んでいる。「なに」と答える僕の隣では栄純くんが倉持先輩に首を締め付けられている。食堂はいつも騒がしいので、栄純くんが叫んでいるのも差ほど気にならない。降谷くんの声がかき消されそうだ。



「苗字さんが最近、僕のことを避けてる」

「えっ……あ、まあ確かに言われてみれば…」



降谷くんはうつむき加減にそう言って、弄んでいた生姜焼きを口に入れた。確かに言われてみれば、思い当たる節はあった。いつもなら僕と降谷くんと名前ちゃん三人で話すことは一日に一回くらいはあったはずだけど、ここ二日間くらいそれが無かった。気にも留めなかったが、思い返してみれば確かにそうだ。どうしてだろう。



「何かあったの?」

「告白した」

「えええっ!!」



思わず大きな声をあげてしまった。慌てて両手で口を塞ぐ。「どうした春っち!」と即座に栄純くんが反応したけど、すぐに「まだ話は終わってねーよ!ヒャハハハ!」という倉持先輩の声に阻まれた。また彼が首を締め付けられたのは言うまでもない。一方爆弾発言をした降谷くんは静かにもぐもぐと野菜炒めを食べていた。まず降谷くんに好きな人がいるという事実が意外で驚く。それも相手が名前ちゃんだなんて。



「名前ちゃんは何て」

「いいって」

「じゃあ、付き合うことになったんだ!」

「うん」

「わ、よかったね…!」



なんでかわからないけど、僕は小声になりながら小さく手を叩いた。確かに降谷くんは名前ちゃんと話すとき、顔にはあんまり出さないけど嬉しそうにしてたりしたから、仲がいいんだなあと思っていた。それがまさか恋愛感情だとは思わなかったし、しかもその思いが実ったとなると興奮せざるを得ない。言われてみればお似合いだ。しかし、喜ぶ僕をよそに降谷くんの表情は曇っていた。そうだ、これが本題じゃない。



「僕、嫌われたのかな」

「いやでも付き合うことになったんでしょ?だからそれは違うんじゃないかな」

「そう、かな…」



降谷くんはもぐもぐしながらも曇った表情をしていた。正直どうして名前ちゃんが降谷くんを避けるのか、僕にもよくわからない。これは僕が一肌脱ぐしかないな、と僕は小さく意気込んだ。