苗字名前、十六才。ごくごく普通の高校一年生。恋愛、それは私の年頃の人にはごくごく普通のことである。しかし私はその恋愛とやらにほとんど縁がなかった。告白されたことは何度かあるけど全て断ったし、誰かをかっこいいと思ったことはあるけど、それは好きとは何か違うと思っていた。



隣の席の小湊春市くんは、かっこいいではなく明らかにかわいいの部類だ。ピンク色の髪はつやつやしていて、長くのばした前髪の間から時々きれいな目が見える。こんなに小さいのに野球部で活躍しているんだからすごい。私が入学して初めて友達になったのも彼だ。私が授業中にうとうとしていると、「もうすぐ当たるから起きた方がいいよ」と小さくつついて起こしてくれる彼はだいたい教科書じゃなくて野球の本を読んでいる。こんな弟がいたらかわいいだろうな、と思って彼を見ていると、「僕の顔に何か、ついてる?」と顔を赤くするんだから、とんでもない可愛さだ。



そしてクラスにはそんな春市くんと同じ野球部の降谷くんがいる。初めはいつもぼーっとしているか寝ている彼を変わった子だなあとしか思っていなかったのだが、春市くんと話しているのを見て「あ、普通に話せるんだ」なんて当たり前のことを考えたりした。成績はあまりよくないみたいだけど、野球部では早々にレギュラー入りしてすぐ公式戦に出ていると聞いたから、人は見かけによらないと思う。色が白くて背がすらっと高くて物静かだから、なんか浮き世離れしてるなあという印象だった彼に、私は少なからず関心を寄せていた。そんなある日。



「ねえ、好きなんだけど…付き合ってくれない」



一緒に日直をやっている時、「昨日の小テストやばかったよね」「春市くんのお兄さんってどんな人?」などとたわいのない話をしていたら、急に降谷くんが落ち着いた声で言った。驚きすぎて何も言えない。なのにどうしてか、気づいたら首を縦に振っていた。それは、突然やってきた。