淡い色を指先で潰す


「お、隣おめえか」

「あれ、伊佐敷くん。よろしくね」



三年生になって初めての席替え、出席番号順の席に飽きてきた頃だったからちょうど良かった。ランダムで決めると宣言していた先生によって黒板に張り出された座席表に合わせてみんな席についていく。出席番号で書かれていたため隣が誰だか席につくまでわからなかったが、去年も同じクラスだった伊佐敷くんで安心する。



「ノート写させてもらう事が多々あると思うが、まあよろしく」



伊佐敷くんはそう言ってふわあと欠伸した。私は「もちろんいいよ」と言いながら視線を落とした。伊佐敷純くん。先ほども言ったように去年も同じクラスの、野球部の男の子だ。隣が彼で安心したと、確かにそう言ったが、それは少し語弊がある気がする。私は人見知りが激しいから、ほぼファーストコンタクト、みたいな人といきなり隣の席になるなんて無理だと思っていたのだ。だから去年から顔見知りの伊佐敷くんが隣で安心した、確かにそうだ。でも、正直な話、私はあまり伊佐敷くんが得意じゃない。何と言っても見た目が怖い。中身をそんなに知っているわけでもないから一概には何とも言えないけれど、一度野球部の練習をちらと見た時、「オラてめぇぶっ殺す!」と叫んでいる伊佐敷くんを見て、怖すぎて思わずひっと声が出た。鬼だった。



「この席だと、先生から見えにくそうだね」

「ああ確かに。山田に感謝だな」



伊佐敷くんが一番窓側の列で、私がその隣、横の列はちょうど真ん中だ。教卓から見てちょうど対角線上にラグビー部でかなり体格のいい山田くんがいるから、かなりいい席なのでは、と不真面目なことを考えていた。しかし、伊佐敷くんも同じ考えらしく、私の言葉にくつくつと笑った。怒った顔とのギャップがあるせいか、彼の笑った顔は私をギクッとさせる。



「でも今年は受験だからなー」

「おいお前それを言うなよ」




***




「お、隣おめえか」

「あれ、伊佐敷くん。よろしくね」



席替えをすると聞いて何も思わなかったが、まあ前の席が最前列だったから(苗字が伊佐敷で出席番号が一番で)どう転んでも今よりいい席にはなるだろうと考えて座席表を見た。席についてみると俺は窓際の席で、隣は去年も同じクラスだった苗字名前だった。彼女は俺の顔を見て目を丸くした。



「ノート写させてもらう事が多々あると思うが、まあよろしく」

「もちろんいいよ」



練習で疲れて授業に集中する気が起きない日はザラにあるし、だいたい野球部のやつに頼んだりするが、なんとなく苗字に頼んでみようと考えた。去年からの印象からして、こいつはお人好しで気優しい。そこまで仲がいいわけではないが、それくらいはわかる。人の頼みを断るようなタイプには見えないし、確かにそうだ。



「この席だと、先生から見えにくそうだね」

「ああ確かに。山田に感謝だな」



ラグビー部の山田のおかげで俺らの席はわりかし良い死角になっている。へえ、苗字もそんなことを思うのか、と意外に思い親近感も湧いた。俺が笑い、彼女も笑った。でも俺は今までの経験上わかることは、苗字は俺を怖いと思っている。表情のひきつり方だとか、視線の動き方だとか、そういうのですぐわかるのだ。だからといって、別に構わないのだが。



「でも今年は受験だからなー」

「おいお前それを言うなよ」

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