透明だった景色たち


クラスの友達と一緒に野球部の練習試合に来ていた。まだまだ本格的な夏には程遠いけど、じりじりと太陽が照りつける。日焼け止めを塗りなおそうかなと考えていると、グラウンドに伊佐敷くんの姿が見えた。グローブを持って守備位置に走っていく。たしか伊佐敷くんは外野手でセンターだったな。何かピッチャーに声をかけている。やっぱり、伊佐敷くんは後輩からも頼りにされているんだなあと考えるとじんわりと胸が熱くなった。見ればショートには前に私を凝視してきた伊佐敷くんの後輩もいた。へえ、彼もレギュラーなんだ…。



「ねえ、小湊くんもいるよ」

「あ、本当だ。ユニフォーム似合うねー」



友達らが指さす先には言葉通り小湊くんがいた。教室にいる時と全然雰囲気が違う。一人の友達はいつも小湊くんをかっこいいかっこいいと騒いでいるから、なんだか興奮している様子だった。ベンチには同じピンク色の髪をした男の子がいる。あ、彼が例の弟くんだな…。そう考えているうちに相手の攻撃が始まった。外野に大きな軌道を描いて飛んだ球を伊佐敷くんが捕り、ものすごい勢いでそれをホームに投げ返す。彼がものすごく大きく見えた。これが、野球をしている伊佐敷くんか。伊佐敷くんが一生懸命になってる野球だ。



「なんか伊佐敷くんいつもよりかっこいいね」



友達が耳打ちしてきて私は顔を赤くした。本当にそうだ。制服を着て笑う伊佐敷くんはそこにはいないけど、でもかっこよかった。思わず見惚れていた。やっぱり私は、伊佐敷くんが好きだ。何度めかわからないけど、再確認した。まぶしい太陽に照らされて伊佐敷くんは後輩に何か怒鳴っていた。




***




試合は無事に勝って帰り支度をしていた。汗をぬぐって顔を上げると亮介と藤原が並んでこちらを見ている。不思議に思っていると亮介が小さく手招きしてくる。カバンを持って彼らに近寄ると、藤原が「ほら、行っておいでよ」と言って肩越しに何かを指さした。そこには友達を何人か連れた苗字がいた。慌てて二人を振り返ると何やら楽しそうな顔をしていた。



「せっかく見に来てくれたんだから、何か挨拶してきなよ」

「そうだよ、伊佐敷くんが誘ったんでしょ」



二人に背を押されて俺は歩き出した。足取りが重い。何て言ったらいいんだ。あの一件から自分で言うのもなんだが変な行動ばかりとってしまっている気がするし、少し気まずい。俺に気づいた友達らが苗字のことをたたいて、そして彼女がこちらを向いた。私服だ。制服の時とは違って、目のやり場に困ってしまう。



「あ、伊佐敷くん…試合お疲れ様」

「おう…今日はありがとな、来てくれて」

「ううん、ずっと来たいと思ってたから…」



そこまで会話して沈黙が下りた。何を言っていいか、わからない。あの言葉を聞いて俺は自覚してしまった。俺は、苗字と、そういう関係になりたかったということに。それが叶わないとわかって、俺はこんなに落ち込んでいる。情けないが事実だった。どうしていいかわからず視線をそばの木に向けていると、ふと彼女が口を開いた。



「すごく、かっこよかったよ。応援してるから、次も頑張って」



はじかれたように彼女を見れば少し照れ臭そうに笑っていた。言われてかっと顔が熱くなったが、自然と俺も笑顔になっていた。その言葉がお世辞であろうといいと思った。それから少し言葉を交わして野球部のやつらの元に戻ると亮介が嫌な笑い方をしながら背中をたたいてきた。「なんだよ!」と言うと哲が静かに「しまりのない顔だったな」と呟いた。

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