だから嫌だった。あなたに恋をすることが。


「今日の小テストの範囲なんだっけ」

「三十五ページから四十八ページだ。だが今確認しているようでは遅いのだよ」

「大丈夫だって。余裕余裕」



高尾くんがスポーツドリンクを飲みながら聞いたばかりのテスト範囲に目を通している。一方、教えた緑間くんは単語帳ではなく文庫本を読んでいる。今日の午後の古文の授業で古文単語の小テストがあるのだ。ふいに高尾くんが単語帳を閉じる。



「苗字、問題出し合おう」

「えっ高尾くんもう覚えたの?」

「そう。いい?俺から出すよ。じゃあ…」

「ちょっと、待って待って。私まだ覚えてないよ」

「高尾、苗字を苛めるのをやめろ」



私が慌ててテスト範囲を見ていると、緑間くんが本から顔を上げずにそう言った。あれ、これ私が苛められてるように見えたのかな。しかも高尾くんにやにや笑ってるし。



「だって苗字苛め甲斐があるんだからさ。可愛いねえ」

「本当に高尾くんはチャラチャラしてるんだから」

「何それ初耳」

「それは苗字に同意するのだよ」

「真ちゃんまで。ま、別にいいけどさ」



満更でもなさそうな高尾くん。実際に高尾くんはチャラチャラしてると思うし(平気で人のこと可愛いとか言うし)その上ちゃんとモテるからすごい。バスケも強いし、頭の回転も早いから実は少し尊敬してしまう。



「真ちゃんは逆にもっとチャラついた方がいんじゃないの?バスケと読書しかしないわけ?」

「お前には関係ない。女と戯れる暇があったらもっと強くなる。無駄なことなのだよ」

「ただのバスケ馬鹿じゃん。思春期男子なのにもっとやることあるでしょ、ねえ苗字」

「う、うん…」



確かに高尾くんの言うとおりかもしれない。緑間くんと言ったら教室ではいつもひつこく高尾くんに話しかけられてるか、こうやって私と三人で話してるか、読書してるか。それ以外の生活が占いとバスケだけとは、確かに思春期男子とは思えない。



「なになに、じゃあ苗字は思春期女子してんの?」

「え?」

「苗字に好きなやつがいたりして…っていなそー」

「ちょ、それどういう意味よ!」

「そのままの意味だろう」

「緑間くんまで」

「お前は高尾と俺では、俺の側だろう」

「いや好きなやついなそうとは言ったけど真ちゃんと一緒にしたら可哀想だよ」

「可哀想とはなんだ」

「そのままの意味なのだよ」

「真似をするな」



高尾くんと緑間くんがテンポよく話すのを聞きながら、私は何も感じない振りをしながら下唇を噛んだ。緑間くん、私があなたを好きだと言ったら、あなたは何と言いますか。お前は俺側だと思っていた、無駄だ、と切り捨てますか。手をぎゅっと握って下を向くと、ちょうど高尾くんが誰かに呼ばれ席を外した。



「苗字」

「なに?」

「高尾はああ言うが、もし好きな人がいるのなら協力は、してやってもいいのだよ」



思いもしない言葉に驚く。当の緑間くんは照れくさかったのか、そっぽを向いている。緑間くんは、とても優しい人だもんね。そんな彼が微笑ましくて、心底彼が好きだと思って、同時に涙がこぼれそうになった。


prev|Back|next

しおりを挟む
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -