一年一組の教室に行って中をそっと覗く。戸の一番近くにいる女の子に彼のことを呼んでもらおうと思って「あの、犬岡くん…」まで言ったところで当の本人である犬岡くんが「あ、苗字さん」とこちらにすっ飛んできた。速い。私は持っていた袋を彼に差し出した。洗濯した彼のタオルと、気持ちばかりのお礼にお菓子も入れた。犬岡くんはそれを受け取ると「すみませんわざわざ!」と言ったがとても嬉しそうだった。お菓子も、口に合うといいんだけど。



「ごめんね、そんなお礼しかできなくて」

「そんな!十分ですよ」



そう言って犬岡くんは「ちょっといいですか」と言って廊下の窓際を指さした。私は不思議に思いつつも頷いて廊下に出る。一年生の階はなんだか私たちの階より騒がしく思えた。みんな若いなあなんておばさんのようなことを考えながら犬岡くんを見上げると、彼は真剣な顔をしていて私は思わず背筋を伸ばしてしまった。彼が少し肩をいからせる。



「あ、あの、もしかして日曜、時間ありませんか」

「日曜?あるけど…」

「もしよかったら、その…出かけませんか」



そうだ、確か日曜日は体育館のメンテナンスで部活がない。出かけませんか、って…。それは、どういう意味だろう。私は特に用事がないので了承したけど、心臓がどきんどきんと跳ねていた。出かけるって、つまり、デートかな…。いや誤解はいけない、考えを早まってはいけない。勘違いしたら恥ずかしいもの。



「実は、その、新しくできたショッピングモールにでかいスポーツ用品店ができて…そこによかったら、行きましょう」

「うん、わかった」



私が頷くと犬岡くんは嬉しそうに「ありがとうございます!俺、楽しみにしてます!」と言った。気恥ずかしくてそっと窓の外を見ると下に同じ部活の子たちが見えて、また犬岡くんといるところを見られたら冷やかされると思って思わず目立たないように窓から離れた。犬岡くんと駅で待ち合わせすることを決めて別れた。犬岡くんの恥ずかしそうな顔とか嬉しそうな顔を思い出すと私まで同じような感情に苛まれる。



「ねえ、山本」

「あー?」

「犬岡くんって、その…どんな子?」

「犬岡あ?」



山本に聞いたらものすごく変な顔をされて、そしてものすごく訝しげにされた。でもすぐににやりと笑顔になって「ああ、お前らなんか仲いいもんな!ていうか一方的に犬岡が懐いてるよな!」と言った。懐いてるって、犬じゃないんだから…。私がなんとも言えずにいると、山本が少し考えるように言った。



「犬岡は素直でいいやつだよ。裏表ないっつーか、まじで純粋。とにかくいいやつ」



いいやつ、と連呼する山本の語彙不足はさておき、彼が悪い人じゃないのはわかった。まっすぐで純粋で、だからこそ私をスポーツ用品店に誘ったんだ。特に深い意味はない、ただ同じバレーボールをしている私を誘っただけだ…。私は勘違いしないように自分にそう言い聞かせて、山本に向かってお礼を言った。「なんだお前、別に礼言うことじゃねーよ」と山本が言うのを聞きながらスケジュール帳を開いて日曜の予定を書き込んだ。

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