主将の先輩と黒尾さんが何やら話している横で私たちは体育館に駆け込んだ。天気予報より早く雨が降り出した、それも豪雨だ。外でランニングしていた私たちは慌てて体育館に戻ったのだ。それで先輩が男子バレー部の黒尾さんに、体育館の場所を少し分けてくれないかと相談しているところだった。生憎私はタオルを部室に置き忘れていて身体を拭けなかった。友達には「拭いてあげようか」なんて言われたけどみんなが拭き終わってそれでも乾いたタオルが残るなら拭いてもらおうと決めていると、犬岡くんが声をかけてきた。



「苗字さん、これどうぞ!」



犬岡くんの手には大きめのタオルが握られていた。受け取ろうか受け取るまいか迷っていると、犬岡くんは差し出していたタオルを急に自分の顔に押し付けてから「あ、大丈夫、練習ではまだ使ってないので臭くないです」となぜか安心したような顔をしてまたタオルを差し出した。少し悪いなと思いながら受け取るのを躊躇する。すると今度は犬岡くんが少し強引に私にタオルを押し付けてきた。受け取るしかない。



「ありがとう…」

「いえ、風邪ひいちゃいますから。それに…その…透けて、ます」



犬岡くんが顔を真っ赤にしながら言って、私は反射的に自分の身体を見下ろしていた。気づかなかったが、下着が少し透けている。ああ、どうして今日に限って下にキャミソールも着ずにしかも濃い青色なんだ…。恥ずかしさでどうにかなりそうだったが、やっとの思いで「ご、ごめん」と声が出た。「いえ、別に謝ることじゃ…」と犬岡くんは視線を落としていた。顔が真っ赤だ。こんな見苦しいものを見せてしまって申し訳ない。タオルで慌てて髪などを拭いてシャツも叩きつつ拭くとあっという間に乾いた。速乾性に優れたスポーツウェアだから当然だけど。



「あのこれ、洗濯して返すね」

「いいですよ。もともと汚いですし、そんなことしなくて大丈夫です!」

「ううん、本当に洗って返すから」



いいのに…と小さく漏らす犬岡くんだったけど、私は頑なに彼にタオルを返さなかった。さすがにタオルを借りて髪やら身体やらを拭いたのに洗わないで返すのは申し訳ない。彼もさすがに根負けしたようで「じゃあお願いします」と笑顔で言った。先輩は黒尾さんと話をつけたようで体育館の半面を貸してもらえることになったようだ。



「ごめん、本当にありがとうね」

「ぜんぜん気にしないでください!苗字さんのためなら俺、頑張っちゃいますから!」



まただ。彼が元気よく言うのでみんなの視線を集めてしまう。ああ、これ絶対に後でみんなに冷やかされる…と思っていると黒尾さんがこちらに来て犬岡くんの首根っこを掴まえた。「なーに恥ずかしいこと言ってんだお前、女子が使うから早く半面整備しろ」黒尾さんの言葉にやっと自分の言ったことの内容を自覚したのか犬岡くんは急にしまったという顔になってすみませんと黒尾さんと私に謝っていた。彼まで恥ずかしそうにしている、よっぽど恥ずかしいのはこっちの方だ…。私は手に持ったタオルに視線を落としながら女子が使える半面へと走った。



「名前、またあの後輩くんにアプローチされてたね」

「しかもあんなストレートに!羨ましいわあ」

「ちょっと、やめてよ!」



アプローチじゃない、あれはただ彼が人懐っこくて純粋なだけだ。そう思いながらタオルをコートの脇に畳んで置いた。孤爪くんが「雨、災難だったね…」と私に小さく言って、私は「うん…」と頷き返した。ふと体育館の反対側にいる犬岡くんと目が合って私は慌てて目をそらした。それは彼も同じだったらしく、また彼に目を向けても彼は下を向いていた。

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