「山本ー?」



今日は部活がオフで体育館は男子バレー部が使っているので私は体育館の入り口から中を覗き込んだ。キュッキュッというシューズの音が響く中で山本の姿を探す。山本猛虎は同じクラスのバレー部員で、机の上に部誌を忘れていたので帰るついでに渡してあげようと思ったのだ。しかし、やつの姿が見当たらない。あの頭だし目立つからいたらすぐにわかるのになあ…。一緒に帰る友達が「山本いないの?早く渡して帰ろうよ」と私を急かすが、本当にいない。もしかして教室に部誌を取りに帰って入れ違いになったとか?そもそも今日部活に出ていないとか、いや、それはないか。孤爪くんはトスを上げていてこちらに来れそうにないし、もうそっとここらへんに置いて帰ろうかな。そんなことを考えていたらものすごい速さで男の子が走ってきた。あまりの勢いに私が怖気づいていると彼は私の前でぴたりと止まって言った。



「あの!どうしましたか」

「あ…実は、山本が部誌を忘れてたんで渡しに来たんですけど」



髪がつんつんしている彼は、目を大きくして私にそう聞いた。あまり見たことがないし、きっとひとつ下の子だな。私は言いながら鞄から男子バレー部の日誌を取り出す。すると彼はそれを丁寧に両手で受け取った。身長は180後半はありそうだ。彼は大きな声で「ありがとうございます!」と言ってコートにいる部員たちの視線を集めてしまう。うわ、そんなに見ないでください。孤爪くんと目があって、彼は手を少しちょいと上げてくれた。彼と話せるようになったのはごく最近だ。



「その…先輩は、女子バレー部ですよね」

「え…?」

「俺、犬岡走です!走るって書いてソウっていいます!」



彼、犬岡くんはまた大きな声でそう言った。なんで自己紹介されているのかわからないのはもちろん、どうして私が女子バレー部にいること、そして先輩であることを知っているのかはかなり不思議だったけど、結局私の口からは「あ…苗字名前です」と自己紹介の言葉が出ていた。犬岡くんは小さく「苗字さん…」と確認するようにつぶやくと、日誌を両手に持ったままぺこりとあたまを下げた。



「日誌、ありがとうございました!」

「いえいえ…そんな大したことじゃないから」



あまりに犬岡くんの元気がいいので部員の視線が一斉にこちらに向いてどうしていいかわからずにタジタジになっていると、後ろから山本の声がした。「おーお前こんな所で何してんだ」というやつがあまりに呑気なので「日誌忘れてたから渡しに来たの!」と強く言うと「何怒ってんだ」と訝しげにされた。来た方向からしてたぶんトイレにでも言っていたんだろう。山本は犬岡くんの手の中にある部誌を確認したようで「お、サンキューサンキュー」と言って笑っていた。そこで山本と犬岡くんは主将の黒尾さんに早く練習に戻れと怒られていて、慌ててコートに戻って行った。



「先輩、ではまた!」



犬岡くんはそう笑顔で言って「一本、お願いします!」と叫びながらコートに入って行く。私は首を傾げていた。人懐っこそうな男の子だなあと考えながら、少し変でもあるなと思っていた。でもすぐに友達の「名前!早く帰るよ」という声がして私は慌てて体育館に背を向けて走り出していた。

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