はあ、とため息が出る。スマートフォンを片手に街中を歩いていた。「ねえ、かっちゃんって彼女いるのかな」そうメッセージを送ると、光一郎からは「本人に聞け」と返ってきた。本人に聞けないからあんたに聞いてるんじゃない、この馬鹿。「そういう話しないの?」と送るとピコンという通知音とともに「最近は連絡を取っていない」と来た。続いて「何回も言わせるな。本人に聞け」と送られてくる。まあ、中学のころからそうだったからそう言われても仕方ない。いつも光一郎にかっちゃんのことを聞いてはなんで俺に聞くんだと鬱陶しそうにされてたっけ。私たちは幼馴染だからよく一緒にいたけど、中学に入るとやっぱり男女だし私は二人と一緒にいることも少なくなって、高校に入ったらそれは著しくなった。まさか光一郎とかっちゃんが別の学校に行くなんて思わなかったけど。私なんかせっかくかっちゃんと同じ高校に進んだのに、私たちはほとんど顔を合わせることはなかった。クラスも違うし、ぜんぜんだめだ。たまに友達に「名前って野球部の真中くんと幼馴染なんでしょ?」なんて聞かれることもあるけど、だいたい意外がられる。



もうすぐかっちゃんの誕生日だけど、なんとかしておめでとうと言いたかった。毎年おめでとうってメッセージを送ったりしていたけど、でも今年はちゃんと顔を見て言いたかった。高校最後の彼の誕生日で、きっと顔を見て言えるチャンスは来年からは少なくなってしまうと思うから。光一郎の誕生日なんかは「光ちゃんおめでとさん!」というメッセージと一緒にわけのわからない写真も一緒に送るくらいするのだが、相手がかっちゃんだと文面を考えるだけで一時間は経ってしまう。だから面と向かっておめでとうと言って何かプレゼントも渡したいと思ってる私はどうなってしまうのだろうと今から心配になる。とにかくいろんなお店を回って何かかっちゃんがもらって嬉しそうなものを探すけど、よく考えたら高校三年生の男の子が欲しいものなんてそもそもよくわからないし、頭を抱えたくなる。結局何も買えずに項垂れて家に帰った。「かっちゃんの好きなものって何?」と光一郎に聞いたら「本人に聞け」と返ってきた。



「あの、かっ…じゃない、真中くんいますか」

「あれ、苗字じゃん。いつもはかっちゃんって呼んでるくせにどうしたんだよ」



かっちゃんのクラスに行って入り口にいた男の子に声をかけたら、その中に野球部の平川くんがいて、思わずうっと狼狽えてしまった。彼は私たちが幼馴染なのを知っているから、可笑しそうに笑われてしまった。「だ、だってかっちゃんって言ってもみんなわからないじゃん!」とムキになると、「わかったって、今呼ぶから」と言って平川くんは教室に入って行く。少ししてかっちゃんが教室から小走りで出てきて「名前?」と不思議そうな顔をした。胸がどきどきと煩い。ああ、来たはいいけど、うまく言えるかわからない。ぐっと、拳に力を込めて私は大きく息を知った。



「かっちゃん、あのね、今日誕生日でしょ。だからおめでとうって言いたくて」

「おお。わざわざそのために?律儀だな」

「うん…あ、あとね、これ…」



かっちゃんはにこっと笑顔で言う。ああ、かっちゃんって少し強面だけど笑うと可愛いんだよなあなんて思いながら、ずっと身体の後ろに隠していたものを差し出した。結局光一郎も教えてくれないし、かっちゃんが何が好きかなんてわからなかったから、私はなんとか自分の頭でひねり出した。どうせマネージャーからもらうんだろうなと思いつつも、私は手作りのお守りを作った。必勝のお守り。そして、性能のいいイヤホンを買った。これは、クラスの男の子の意見だ。だいたいみんな音楽は聞くし、もらって困るものでは決してないという当たり障りのないもの、なんだけど。自分の前に差し出されたものにかっちゃんは目をぱちぱちさせたが、すぐに少し笑って受け取ってくれた。



「ありがとう」

「ごめん、何欲しいかわからなかったんだけど…」

「光一郎から聞いてた。本当ありがとうな」



言われた瞬間、ぼわっと顔が熱くなかった。光一郎…!彼がかっちゃんに何と言ったかはわからないけど、思わずことを言われて私は完全に動揺してしまった。「え、光一郎が…そうなんだ…はは」と言う私は彼の目に変に映っていないかな。どうしていいかわからなくなっていると、かっちゃんは笑顔をすっと引っ込めて、私を見た。



「名前」

「う、うん?」

「夏が終わったら、どこか行こう」



何を言われているかわからなくて一瞬ぽかんとしていると、かっちゃんは視線を外して少し恥ずかしそうにしながら「だから、一緒にどこか出かけようって言ってんだ」と言われた。それは、デート、なのかな。何かものすごい勢いで込み上げてきて、私は思わず笑顔になっていた。「それは、光一郎と三人で?」と聞くとかっちゃんは少しの沈黙の後に「…光一郎抜き、で」と言った。光一郎ごめん、でも私本当に嬉しくて死にそうだよ。うん約束ね!と言う私にかっちゃんは大きく頷いてそのまま教室に帰って行った。光一郎にメッセージを送った。「かっちゃんとデートするよ。光一郎仲間に入れられなくてごめんね」と送ると「勝手にしろ」と返ってきた。ふふっと笑みが漏れる。「早く三人で会いたいね」と言うと「そうだな。でも夏は俺たちが勝つ」と来て、本当にもう、二人とも昔から野球ばっかりなんだから、と呆れ半分にも微笑ましくて私は笑顔になりながら「二人とも応援してる」と送ってメッセージを閉じた。

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