「降谷くんって、なんだか面白い人だね」
高校に入って初めて話した女の子は僕にそう言った。僕は生まれてこの方自分が面白いだなんて一度も思ったことがなかったし、そしてこれからもないと思う。彼女の言葉の真意とかそんなのはわからなかったけど、とりあえずお礼を言った気がする。彼女は楽しそうに笑っていた。
「こないだの試合見たよ。一年生なのに登板してたね、本当に降谷くんは面白い」
その女の子は苗字名前さんという名前だった。こんな僕とは違って声が通って明るくて友達が多くて、でも同じ野球部で同じピッチャーの沢村みたいに五月蠅いとかうざいとかいう感じがしなくて、僕にとったらよっぽど苗字さんの方が面白い。彼女が僕に言う面白いと、僕が彼女に思う面白いは違う気もするけれど。
「苗字さんは、行かないの」
「何に?」
「あれ」
僕が聞いたのに、返ってきた答えがまだ疑問だったから僕は小さく指差した。その先には大勢の女子の集まり。なんだか甲高い声をあげてはしゃいでいる。苗字さんと仲のいい女子も何人か混ざっていたから、彼女も混ざらないのかなあと、純粋に疑問に思ったのだった。すると苗字さんが少し眉を下げた。
「私、あんまりそういうの興味ないの」
「そういうの?」
「イケメンのアイドルとか、今人気の若手俳優とか。変だよね、一応これでも女子高生なのに」
なるほど、あの集団の真ん中にあるのは雑誌や写真集か。ちらりと人の隙間から見えた、積み重なった本。そして僕の目の前には少し困ったような顔をした苗字さんがいて、僕はなんだかおかしい気持ちになった。
「変じゃないよ、全然…」
「そうかな」
「僕もあんまり興味ないし」
「本当に?」
「うん」
僕の言葉に苗字さんは少しほっとしたように笑った。その笑顔が自分の言葉によって生まれたと思うと、なんだかむず痒くなるほど嬉しかった。彼女の笑顔がもっと増えればいいと思った。面白くも何ともない僕だけど、僕は彼女の笑顔がたくさん見れたらいいと素直にそう思った。
「僕は、苗字さんが笑ってるの、好きだから」
自分でも何を言っているのかわからなかったけど、本心ではあった。顔が熱くなるような気がしたが、気のせいということにしておく。一瞬面食らった苗字さんは、「やっぱり、降谷くんは面白いね」と笑った。彼女の頬がほんのり赤くて、僕の頬の色が色移りしてしまったのだと反省した。
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思考回路がわからない人を視点にするとこうなるorz
お粗末ですみません
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