二週間ぶりに顔を合わせたと思ったら、影山くんは大真面目な顔でたまには外食しようと言い出した。本当に二週間ぶりだった。どうやったらここまでお互いの姿を一切見かけないで済むのかというくらい会わなかった。一度家に帰った時影山くんの靴はあるのに家の中から全く音がしなかった時はまさかまた倒れてるんじゃないかと思って慌てて駆けこみ、姿が見当たらなくて掟を破って彼の部屋を覗き込んだら着替えもせずにベッドで寝ていた。よほど疲れているらしかったけど、それもそのはず、影山くんは本格的にバイトを始めたからだ。この前までは週に一度の家庭教師しかやっていなかったが(というか彼の学力で何が教えられるのかずっと疑問なんだけど)最近飲食店でもバイトを始めたらしい。「影山くんって接客なんてできるんだ。意外」と言うと「ホールじゃなくてキッチンだボケ」と怒られてしまったんだけど。



「なるほど、自分は料理作れないから奢ってやろうという魂胆ね」

「なんか文句あんのか」

「ありません。むしろ嬉しい」



どこに行こうと話し合った結果、近所にあるちょっとお高いファミレスにすることにした。カップルじゃあるまいしオシャレなお店に行く気もなかったし、でも影山くんが安いところでも意味がないというので、そこに落ち着いた。向かい合わせで席に着くと、なんか家にいる時とは違ってなんだか新鮮だった。メニューを見て本当はグリルハンバーグのデミグラスソースかけが食べたかったんだけど、予想以上に値段が高くてやめた。影山くんがもらっているであろう自給を考えて計算すると、急に食欲もなくなる。「私、このグリルチキンにするね」と半分くらいの値段のメニューを指さして彼に言うと納得いかなそうに頷かれた。な、なんだろう。ウェイターの人が来て影山くんがメニューを取った。



「えっと、これと、これ、チーズ乗せてください」



へえ、影山くんってこういうものにチーズ乗せたいタイプなんだ、と私は意外に思っていた。私もチーズ乗せは大好きだけど値段が割高になってしまうのでいつも気が進まない。ぼうっと影山くんを見ていたら「なに、俺の顔になんかついてる?」と言われてはっとして視線を逸らした。いや、影山くんってやっぱり黙ってればかっこいいのになとか思ってたとか言えない。これも全て慣れない外食のせいだと顔を横にぶんぶん振った。不審そうな目をする影山くんは放っておこう。



「ちゃんと課題はやってるの?」

「ぼちぼちだな。まあ留年しない程度にやる」

「はあ…まあ部活やってるから仕方ないよね」

「ああ。正直生活は部活一色だしな」

「通りで全く彼女ができる気配がないのね」

「お前に言われたくねえ」



影山くんが鬱陶しそうな顔をしながらお冷を飲む。もうすっかり秋なのに影山くんに彼女ができる兆しはない。まあ、彼に彼女ができたらこのルームシェアもすこし面倒なことになってしまうのではないかと思うと楽ではあるけど、心配と言えば心配である。私は親か!と自分に自分で突っ込みを入れつつ、彼を見ていたら自分も喉が渇いてきたのでお冷に口を付けた。



「部活のマネージャーとかでいい子いないの?」

「は?余計なお世話だよ。まあ、普通にみんなカワイイんじゃねえの」

「投げやりだねえ」

「そういうお前は誰かいい人いないのかよ」

「ううん、いないことはないんだけど」



言った瞬間、影山くんが水を吹いた。「ええっ!ていうか汚!!」と言いつつも私はすぐに紙で水を拭いてわざわざ彼の隣まで言って背中をさすった。大きくせき込んでいる影山くんはたぶん気管に水が入ったんじゃないかと思う。しばらくせき込んだ後に彼は「もう、大丈夫、だから」と苦しそうに言った。いやどこが大丈夫なのよと思いながら自分の椅子に戻ると、影山くんが少し顔を赤くしながら言った。そうとう苦しかったんだと思う。



「いんのか、そんなん」

「そんなん、っていうか、この間サークルの先輩に告白されただけ」

「されただけってなんだよ」

「でも、人としては好きだけどタイプってわけじゃないし、だから断ったんだけどね」



それはもう一ヶ月くらい前の話だった。サークルの二つ上の先輩に練習のあと唐突に告白されて私はものすごく驚いた。よくご飯にも連れて行ってくれてたし面倒見のいい先輩だなあとしか思っていなかったけど、実はそういう気持ちだったとわかってなんだか複雑でもあった。それを影山くんに言うと「男なんてそんなもんだろ」と澄ました顔で言われた。なんか腹立つ。そう思っていると料理が運ばれてきた。影山くんにはビーフシチュー、そして私には。



「こ、これ!」

「お前それ食いたかったんだろ。わかりやすすぎ」

「なんでわかったの…ていうか悪いよ」

「メニュー見てる大半の時間それ見つめてりゃわかるわ。早く食えば」



私に運ばれてきたのはグリルハンバーグのデミグラスソースがけ、それもチーズが乗っていた。驚いて影山くんを見ると彼はこっちも見ずに言って、自分のビーフシチューに手を付けていた。純粋に、ものすごく嬉しかった。「ありがとう、影山くん」というと「別に普通だそんなもん」と言ったけどやつはドヤ顔だった。あー、なんか腹立つけど嬉しい…。私が大喜びでそれを食べていると「デザートも頼んでいいからな」と影山くんがメニューを突き付けてきた。いや早いです。ていうか初めてボーナス出たお父さんですかあなたは。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -