帰りの電車の中でスマートフォンを開くと、影山くんからメッセージが来ていた。あれ、珍しいな。開いてみると「今日は知り合いが来てるからよろしく」と書いてあった。スタンプも絵文字もない、影山くんらしいメッセージだ。知り合いって、大学のバレー部の人かな?何人くらい来ているんだろう。どうせ影山くんのことだから何も振る舞ってないんじゃないかな…。いろんな思考が入り乱れて、結局スーパーに寄って買い物をして帰った。



「ただいま…」



玄関を開けると靴がたくさんあった。こ、こんなに人が来てるの?入りきってるの?というか、これ絶対みなさん床に座らされてるよね…。という私の嫌な予感も当たり、何人かの男の人が床に座っていた。ああ、やっぱり…と思っていると、一人の男の子が声を上げた。大きな男の人たちの中でも小柄で、髪の毛がオレンジだ。



「うお、噂通り女子だ!」

「本当だ。すげえ」

「影山、迷惑かけてないか」

「かけてないっすよ」



男の人は影山くんを除いて四人。聞いたところ影山くんの高校時代の部活仲間だそうだ。二つ年上で主将だった澤村さんは千葉の大学に通っていて、副将だった菅原さんは仙台の大学らしい。一つ年上の田中さんは神奈川の大学、同い年の日向くんは宮城の大学、というメンバーだ。みんなで練習を利用して影山くんに会いにきたらしい。半ば同窓会のようになっていて大盛り上がりだった。もちろん影山くんは何も振る舞っていなくて、みなさんの差し入れも男性らしく既製品のおつまみ等だったから、私は軽く何か作ることにした。



「それにしても、名前ちゃんはしっかりしてるね」

「そうですか」

「うんうん、いいお嫁さんになりそうだね」

「それは…ありがとうございます」

「これで安心して影山を預けられるな!なあ日向!」

「そうですね!!」

「いや預けられてんじゃないっすよ…」



影山くんは怒ったようなことを言いながら楽しそうだ。きっと、高校時代も部活を頑張って、この人たちも大事な仲間なんだなと思うと心が温まった。さて、ジュースも買ってきたし出そうかなと思っていると澤村さんが缶ビールを飲みながら言った。



「いやでも影山と暮らせる女の子がいるなんて、考えもしなかったな」

「俺でも無理っすよ!ったくこんな生意気なの!」

「でも、よかったよ本当に。上手くやってるみたいだし」

「結婚式は呼べよ!あ、俺、でっかく飛んでブーケ取りたい!」



四人がわいわいと騒いでいる。いや、ブーケは未婚の女の子が受け取らないと意味がない…ってそうじゃない。何の話ですか?結婚式?何かこの人たち勘違いしてない?と私が影山くんを見ると彼も同じような顔をしてこちらを見ていた。影山くんがポテトチップスを片手に立ち上がった。



「あの、何を勘違いしてるのか知りませんけど、別に俺ら付き合ってるとかじゃないですよ…」



瞬間、騒いでいたみなさんの動きが止まった。表情も固まり、顔からすっと笑顔が消える。そして影山くんと私の顔を交互に見た。「え…」と小さく最初に声を発したのは菅原さんだった。澤村さんは手に持っていた柿ピーを落とした。



「え…一緒に住んでるからてっきり付き合ってるもんだと…」

「っていうか付き合ってないのに一緒に住むとかあんのか!?わけありか!?」

「ちょ、田中声でかい黙れ!」

「えー付き合ってないのかよ!何それ!!」

「日向も黙れ!」



私たちはお互いに顔を見合わせた。それもそうか。私たちはもう慣れてしまったが、普通はそうなんだよな。そういえば私も大学の友達に男の子とルームシェアしていることは言っていないし、誰かの家に行こうという話になっても、絶対に自分の家には誘わない。影山くんがやれやれと言う風にため息をつくので、私も真似してやった。
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