一日のうちに影山くんと顔を合わせる時間はほとんどない。朝はしっかり食べるようにあとは焼くだけのフレンチトーストとヨーグルトを冷蔵庫に入れてあるから、朝はそれを食べてもらって、夜はたまに一緒に食べたり、あとで彼が温めて食べたりしている。彼も大学の初めで慣れない生活に疲れていただけらしく、最近では生活に余裕も出てきた。相変わらず毎日部活ばかりらしく、勉強をしている姿は見たことがない。別に彼との付き合いが長いわけではないんだけど、一緒の家に二人で住んでいるせいか(救急車で運ばれるという事件もあったし)なんとなくずっと前から知っている友達のような気がしている。




「ふう…」



シャワーを浴びてタオルを身体に巻く。今日はテニスをしてたくさん汗をかいたから早めにお風呂に入った。今日の晩御飯は何にしよう。影山くんは遅いと言っていたっけ。それだったら後から温めても美味しいものにしなきゃなあなんて考えていると洗面所のドアががちゃりと開いた。大きなカバンを持った、いかにも今帰りましたといった格好の影山くんがいた。



「ぎ…」

「…なっ…」

「ぎゃああああああ!!!」



思わず彼を突き飛ばしてドアを閉めた。思わず自分の身体を見下ろす。大丈夫、タオルは巻いてる、何も見られてない。大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせて慌てて服を着た。髪をものすごい勢いで乾かす。そしてそっとリビングに出た。するといつもは自分の部屋に入っている影山くんがテーブルについていた。



「いや、その…」

「・・・」

「…悪かった」



影山くんは気まずそうに視線をそらしながら言った。いや、彼が私のことを女として見ていないことは百も承知なのだが、それでも見られてはまずいものはいくらでもある。まあ、見られてはいないんだけど。私は「…別にいいよ」と言ってキッチンに立った。とりあえず影山くんの帰りも早かったので、一緒に食べるという流れになるだろう。じゃあ、今日のご飯は豚の角煮とかでいいかと考えていると、影山くんが私の隣に来た。



「あの、なんていうか…帰ってすぐに手洗おうとしたから中に誰かいるとか確認してなくて…」

「大丈夫だって、それより少しは勉強とかしたら?課題とかあるんでしょ?ご飯作るから待ってて」

「いや…手伝う」



は?と思わず口に出てしまった。影山くんは何も言わずに手を洗い始めた。いや、あなたカップラーメンにお湯を注ぐことしか能がないでしょ…。唖然としている私をよそに彼はこちらを向いて「何をしたらいい」と聞いてきた。どうしたの、いきなり。



「いや、あの…どうしたの」

「別に、いつもお前に食事を作ってもらって悪いと思ってるだけだ。それに…さっきのお詫びも兼ねて」



変な影山くん。そう心の中で思ったら口に出ていたらしく「変ってなんだボケ!」と怒られた。でも、そう思ってくれてるなんて意外だ。不思議とこの人との生活のしかたとかわかってきているのが面白かった。「じゃあ、そこにある野菜洗って」というと大人しく従うので尚更おかしくて笑っていると、また怒られた。あれ、これあなたが謝罪の意を示すためにやってるんですよね…?
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