影山飛雄くん。私と同じ18歳の大学一年生。バレーボールのスポーツ推薦で宮城県からB大学に進学したらしい。見た目は怖いけど、黙っていればそこそこ綺麗な顔立ちをしている。背も高いしモテるんだろうなあなんて思って「女とルームシェアなんてして彼女は大丈夫なの?」と聞いたら「彼女はいない」と返ってきた。意外だ。まあ物言いとかけっこうズケズケしているし、そこに関してはモテないんじゃないかなと一人で頷いていた。 「テーブル、これでいいだろ」 「うん…でもちょっと小さくない?」 「いいだろ別に使う最大人数は二人なんだから」 「うんまあそうだけど…」 「じゃあイスはこれで二つな」 「えっ二つでいいの?」 「それ以上いるのかよ」 「だって、お客さんとか来た時どうするの」 私が言うと影山くんはあからさまに嫌そうな顔をした。そもそも誰か家に呼ぶなんて気はさらさらないようだった。でもこれから大学に入って友達ができたら家に呼んでごはんを食べたりだとか、そういうことがあるに決まっている。そういう大学生活を私は思い描いているのだし。影山くんははあと息を吐いた。 「お前が人を呼んでも俺には関わるなよ」 「はあ…」 「それに人が来たって床にでも座らせればいいだろ」 はあ、これはモテないわ。私は確信した。その発想はなんだ。床にみんな座らせてそこでご飯を食べろと!?私は少し黙って影山くんの顔を盗み見た。彼は「あとテーブルとイス以外は…」とお店の中を見回していた。 「影山くんってモテないでしょ」 「はあ?お前に言われたくねーよ」 「その発想はないわあ。彼女いない歴どれくらい?」 「2…ってなんでもいいだろ!」 なるほど、2年か。やっぱりね。答えちゃってるし、ちょっと可愛いところもあるみたい。まあこの人とうまく生活していくのはけっこう大変かもなあなんて考えていたら、もう影山くんの姿はなかった。お、置いて行かれた…。 *** 次の日、ホームセンターからテーブルとイスが届いた。そして、ソファ。買った覚えのない薄い色のソファが運び込まれた時、私は目を丸くした。ぱっと見、二人掛けだ。影山くんはそれらを全部一人で運んで、そして満足げな顔をした。 「よし、これでいいだろ」 「あの、このソファは…?」 「ん?ああ、俺が買った。別にお前も座りたきゃ座っていいけど。テレビ見るのは普通ソファだろ」 ああ、きっと私を置き去りにしたときに買ったのだな…と私は納得した。影山くんは満足げな顔でソファに座った。テレビの電源をつけると、結構住み慣れた感じの部屋になった。でも、ソファは明らかに二人掛け、座ったらお互いかなり距離が近そうだし、私は座ることを躊躇してキッチンに向かった。 「あの、影山くん入学式いつ?」 「火曜」 「あ、私の次の日だ。じゃあそこからお互い忙しくなるね」 「そうだな」 リビングの入り口に紙が貼ってある。昨日の夜、二人で決めたルールだ。相手の部屋には無断で入らない、入るときはノックする、光熱費はきっかり割り勘、食費はそれぞれ別々に、夜は静かにする、掃除は気づいた方が進んでやる、などなど…。やはり他人と生活するとなると、ルールは細かく設定しなければならないようだった。 「あの、今から私お昼作るけど、影山くんも食べる?」 「え、お前料理できんの」 「…はい出来ますけど」 「そうだな…いや、やっぱいいや。俺はコンビニでなんか買うから」 一緒に生活していても家族じゃない。まったく別の人間だから。一緒にご飯を作って食卓を囲むなんて、恋人じゃあるまいし。私は納得してペペロンチーノを作り始めた。 |