部屋は思い描いていたもの、そのものだった。日当たりはいいし、内装もきれいだし、水回りにも何も問題はなさそうだった。でも。問題はあった、とてつもなく大きな問題が。男の子はリビングの床に座って、私を見上げていた。完全に、観察するような目だった。仕方なく、彼の前に少し距離を取って私も座った。



「はじめまして、苗字名前と申します…静岡から来ました…」

「俺は影山飛雄。宮城から上京してきた」

「・・・」

「って、自己紹介する前にこの状況明らかにおかしいだろ」



影山くんの言うことは正しかった。明らかにおかしい。影山くんは一緒に住む女の子の彼氏ではなかった。彼自体が私と一緒に住む人だったなんて、誰が想像していようか。また沈黙が落ちてきたが、案外影山くんは冷静だった。部屋の中を見渡す。



「まあ、状況がおかしくたって、この物件は手放したくない。俺もお前も」

「…はい」

「じゃあ住むしかねえな。とりあえず共用のもので足りないものは買って、あとは住む上でのルールを決めなきゃだな」



影山くんはすくっと立ち上がって家の中を歩き始めた。私はそれをぽかんとして眺める。え、切り替え早っ!私はまだまだ混乱していて気持ちの整理がついていないんですけど。だって可愛い女の子と二人できゃいきゃい楽しく生活することを想像していたのに、ルームシェアの相手がこんな怖い男の子だなんてすぐ納得いくわけがない。そんな私をよそに、影山くんの声が部屋に響く。



「まあ書いてあった通り家電一式はあるな。冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、コンロ、テレビ、エアコン…まあこれだけあればいいだろ」

「そ、そうですね」

「あとはこのリビング…テーブルもイスもないからな。あとはなんだ。とにかく足りないものもあるから買いに行くか」

「はい…え、二人で?」

「そりゃそうだろ。まあ別に俺に任せていいなら俺が買ってくるけど。もちろん割り勘な」

「いや、私も行きます」

「まあそうだよな」



なんだか先が思いやられた。けっこう影山くんは物事をはっきり言う性分らしく、さっきからてきぱきといろんな事をやっているところを見るとしっかり者のようだ。そうか、共同生活をする相手だから、一緒に買い物も行って当たり前か。そもそも知らない男の子と生活すること以前に、家族以外の人と暮らすのが初めての私にはわからないことだらけだった。



「明日何か予定あるか」

「ないですけど…」

「じゃあ明日買い物行くぞ。とりあえず今日はお互い荷物の整理するだろ」

「はい」

「ていうかもう敬語じゃなくていいだろ。俺ら同い年らしいし」

「え、うん…影山くんも大学一年生?」

「そう。お前どこ大?」

「A大学だけど…」

「へえ、頭いいのな。見た目によらず」

「し、失礼な…影山くんは?」

「俺?B大」

「そっちもけっこういい大学じゃん」

「いや、俺スポ薦だから」



影山くんは荷物の箱を開きながら言った。スポ薦って、スポーツ推薦のことだよね。なんのスポーツやってるの?と聞こうとしたら、段ボールの中からバレーボールが出てきた。
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