「まあこうなるのが普通よね」なんて友達に言われて私は照れてしまった。大学を二人とも現役で無事に卒業して早一年、私たちは結婚した。二十四で結婚は早い気もするけど、私たちの同棲期間はなんと六年だ。結婚式には私たちの家族はもちろんいつだか鍋パーティを開いて激怒する飛雄に会ったサークルの子たちや彼の部活の人たち、それに高校時代の友達も来てくれた。結婚は人生の墓場なんて言うけれど、そもそも私たちはずっと夫婦みたいな生活をしていたから、籍を入れて私の名字が変わったくらいしか違いはない気がする。自分が影山名前で、病院なんかでも「影山さーん」なんて呼ばれると思うとものすごくむず痒い。



結婚式場でウェディングドレスを着た私を見て飛雄は顔を真っ赤にして「なんだ、その…すげえ綺麗だ」って言ったときは私まで顔が真っ赤になって式場の人にくすくすと笑われてしまった。そういう飛雄も漆黒の衣装をびしっと着こなしていて、ものすごくかっこよかった。恥ずかしくてそんなことは言えなかったけど。これは後日談だけど、飛雄は誓いのキスの時に恥ずかしすぎて私の目を手で覆いたくなったらしい。飛雄はよくキスする時に恥ずかしいときはそうする。付き合い始めて何年たっても時々やるから、いつまで恥ずかしがってるの、なんて思うけど。ブーケを女の子たちの中に投げ込むときゃあきゃあという声に交じって「俺が取る!」なんて聞こえてオレンジ頭の小柄な男の人がぴょんと高く飛んでブーケをかっさらったのはさすがに驚いた。それは紛れもなく日向くんで「何してくれてんだ日向ボケェ!!」と飛雄が大声で怒っていたけど、日向くんはウィンクまできめていた。彼氏のいない友達に「名前のブーケをキャッチして素敵な旦那さんをゲットする予定だったのに!」なんて怒られたけど私は悪くない。悪いのは日向くんを取り押さえていなかった澤村さんや田中さんたちだ。



ウェディングリングを指でなぞりながら部屋の外を眺めていたら、飛雄がやってきてそっと私を後ろから抱きしめた。私の頭のうえにこつんと自分の顎を乗せる。見上げると彼の少しふっと笑う声がして、私も笑顔になった。「はやく子供がほしい」そう言う飛雄に私が驚いて振り向こうとすると「いや待て振り向くな」となぜか制されてしまった。抱きしめられたまま外を見つめていると、飛雄が続ける。「お前も、子供たちも、俺が守る。笑顔が絶えなくて、明るくて、そういう家庭にしたい」まさか飛雄が将来の家族設計なんてしているなんて思わないから、私は意外に思いながら彼の言葉に耳を傾けていた。飛雄がいて、かわいい子供たちがいて、みんな笑っていて、と想像するとじんわりと胸のあたりが温かくなった。きゅっと彼の腕に力がこもったので、どうしたのかなと思っていたら彼が力強い声で言った。



「お前に、俺と結婚してよかったって絶対思わしてやるから」



ふわっと彼の匂いがして、少し遅れて彼の吐息が首にかかった。自分に回された彼の腕に自分の手を添えながら、「もう飛雄と結婚してよかったって思ってるよ」と言うと、彼は「馬鹿、その判断を下すには早えよ」と言いながらそっと腕を放した。と思ったら彼の手が私の顎に添えられてそのままキスされた。何度も何度もしてきたキス。いつものように頭がじんわり麻痺するような感覚になっていると、私の顎に添えられていた手がそっと放されたので、私はすぐさまその手を握った。飛雄が驚いたような顔をして、顔が離れていく。「だめ、今日は目を覆うのはなし」と言うと「なんだそれ意地が悪いな」と飛雄は少し視線を逸らしてから、そのまま目を合わさずにもう一度キスをした。私の背中の後ろで太陽が沈んでいく。間違いなく、私は今世界で一番幸せだ。そんなことを考えながら、私は少し照れ臭くなって爪先立ちをしながら飛雄の目を右手で覆った。
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