私たちがルームシェアを始めて一年が経った。あの衝撃の日が一年前とは、月日の流れとは早いものである。私たちは新歓活動に忙しくて、新入生たちの若さに圧倒されたりしながら毎日楽しくやっていた。それが、ここ最近冷たい雨ばかり降って私は新学期早々から熱を出してしまった。滑り出しで躓くなんて情けない。サークルのみんなも心配してくれたけど、あの一件があってから誰も私の家に来たいとは言わなくなった。その話もサークル中にあっという間に広がって「ああ、だから名前は誰も家に呼んでなかったのね」なんて妙に納得されたりした。しかし影山くんが彼氏ではないかという疑いは一向に晴れず「男の子と一緒に住むなんて付き合ってなきゃありえない」「一つ屋根の下に住んでて何もないなんておかしい」と散々言われたが、私は必死に否定し続けた。絶対に、私たちの普段の生活を見てもらったらわかるはずだ。朝晩少し顔を合わせるくらいだし、そんな色事なんてその気配すらないんだから。例の先輩からの視線も痛かった。正直。



まあそういう理由で誰も私のお見舞いに来ることもない。どうしよう、幸い冷凍してあるカレーがあるから今日の夜は影山くんにはそれを食べてもらって、明日の朝、それに夜はどうしよう…。明日までに熱が下がって体が楽になればいいんだけど、と私は考えながら私は静かに目を閉じた。とりあえず寝よう。そう思ったら、私はすぐに夢の中に引きずり込まれていった。



「あ、起きたか」



次に目を覚ました時に目の前に影山くんが座っていたので私は思わず飛び起きてしまった。すると、体中の節々が痛んで思わず顔をゆがめる。「おいおい体調悪いんだからあんま激しい動きするな」と影山くんに制されてしまった。え、ていうかあなたなんでここにいるんですか。部屋はノックしてから入る約束ですよね。



「え…今何時?」

「五時」

「な、なんで…部活は?バイトも…」

「今日はバイトない。部活は早退した」

「え…」

「お前が冷凍してあるもん食べろって言うの珍しいから、たぶん体調悪いんだと思って」



影山くんはバレーボールのスポーツ誌に目を通しながら言った。最近思うのだけど、影山くんは何か恥ずかしいこととか照れ臭いことがあると人の方を見ない。私のために早退してきてくれたんだと思うと嬉しくなって少し布団を深めにかぶると「どうせお前、誰も家に来てくれないだろ」と言われたので「誰のせいだと思ってんじゃ!」と言い放つと彼は知らん顔していた。あれからサークルで影山くんが私の『守護霊』だと呼ばれていることは、さすが本人に言うと本気で怒られそうなのでやめておく。まあ別に守られたことなど一度もないんだけど。すると影山くんが私の部屋のミニテーブルの上にスポーツ誌を置いて立ち上がった。



「俺が飯作るわ」

「うん…て、え!?」

「何びっくりしてんだよ。俺だって作れる」

「いや初耳なんですけど。え?」

「部活の先輩とかに教えてもらった。ていうかお前、食欲は」

「ううん…あんまりないかな」



影山くんは私の返事を聞いて何やら考えながら無言で部屋から出て行った。あ、そういえばノックなしでは入室してはならないというルールを破ったことを指摘し忘れた、と思ったが、私を思ってのことだと思うと言えなかった。それから、キッチンの方から「うわっ何だこれ!」とか「ちっ…めんどくせえ」とか聞こえてきて私は気が気ではなかった。ああ、どうかキッチンだけは無事であってくれ…と思いながらまたうとうとしていると、私のエプロンを巻いた影山くんが部屋に入ってきた。思わずまた飛び起きてしまった。



「それ、私のエプロン!」

「なんだよ、料理する時は付けんだろうか」

「…なんかかわいいね」

「ああ!?」



はいはい、形から入るタイプね、と言うとうるせえと怒られた。その少し身長のわりには小さいエプロンをつけた影山くんが持っていたのは、白いお椀に入ったお粥だった。風邪のときにお粥とは、またベタな…とは思ったけど、美味しそうな匂いがしていて私は思わず拍手してしまった。「すごい、すごいね影山くん!」「うるせえ食べてもいないくせに褒めるな!作るだけなら誰でもできるんだよ!」大きな声で言う影山くんはイラついたように見せかけてすごく嬉しそうだ。やればできるんだ…と感動しながら「いただきます」と手を合わせてお粥を口に運ぶ。それを固唾をのんで見守っている影山くんが面白い。



「お、おいしい…」

「当たり前だろ」

「今すごくハラハラして私を見てたの誰」

「うるせえ」

「これ、先輩に教えてもらったの?」

「ああ。さっきマネージャーの人に聞いた」



さすがに女の人に聞いただけあって繊細なお粥が出来上がったようだった。これは、さすがに男の料理ってやつではなさそうだな。「お前さ、俺が女の人の話しても何も感じないんだな」と言われて私はぽかんとしてしまった。「なんで?いやだって私別に影山くんが誰家に連れてきてもいいと思ってるし。あなたと違って」と言うと「そういう意味じゃ…まあいいか」と影山くんはぼそぼそ言いながらお粥を食べ始めた。「えっ!?影山くんも今晩お粥なの!?」「はあ?二品も作れるかボケ!」「だから冷凍してあるカレーあるって!もう」私が言うと彼がキッチンへと去っていって、私は一息ついた。まあ、影山くんが女の人の話をすることは少ないし、なんか違和感はある、けれども…。
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