自分の教室を出て階段に出てすぐに山口に会った。また今日も横断幕作りを手伝ってくれるようだった。本当に、山口はいつも月島のことを犬のように嬉しそうについて回っているなあなんて思う。



「山口、今日もありがとう」

「いいんですよ、俺ツッキーを手伝いたいだけだし…あ、そうだ」

「うん?」

「なんか、苗字さんって不思議ですね」

「なんで」

「ツッキーがあんなに楽しそうに人と話すの、初めて見ました」

「え…にこりともしてないじゃん」

「確かに笑いはしないんですけど…俺、ツッキーと付き合い長いからわかるんです。楽しそうですよ」



なぜか山口はとても嬉しそうに言った。山口も俺と同じ気持ちなのだろうか。山口が月島の嬉しそうな様子を見て自分も嬉しいように、俺も苗字の楽しいのは嬉しい。でも、このもやもやはなんだろう。きっと、このもやもやは、山口は知らないはずだ。



「あ、菅原さん来た」

「ちわっす」

「今日から文字を縫い付けられますよ!」



教室に入れば森重と笹谷が針と糸を持っていた。そしてその奥で月島と苗字が切り取った文字をどこに配置するか考えているようだった。一緒に位置を確認する二人は肩を寄せ合っているように見えて俺は、なんだか複雑な気持ちになった。月島の表情を見る。俺には、それが楽しそうなのか退屈そうなのかわからない。



「あ、スガ、この文字の位置どこがいいと思う?」

「はあ、こんな複雑な感じばっかのスローガンなんて考えるから大変になってんだよ…」

「まあまあ月島。気長にやるべ」



真ん中に置けばいいかな、なんて考えると月島が山口に呼ばれて離れていった。苗字は大真面目な顔をして真っ新な横断幕を凝視している。何か楽しそうに話す山口に何か気難しい顔をして返している月島、針と糸を手に何か相談している後輩たちを見てから、苗字に視線を戻した。



「なんか、月島と仲良くなってるみたいだね」

「そう見える?なんか月島くんっていつも楽しくなさそうだから心配だったんだけど」

「いや、あんなに月島と話せる人って珍しいと思うし」

「そっか、よかった…なんか、月島くんってほっとけなくて」



苗字はそう言って笑った。でも、いつもの満面の笑みとは違って、なんだか柔らかかった。ふふっと、肩をすくめる。もやもやが、どんどん大きくなる。苗字が笑っている、嬉しそうに、でもその笑顔は今まで見たことがなくて胸がざわついた。苗字が笑っていてくれればいい、それだけでいい、のに…。

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