二月の空気は冷たく、手はかじかんていた。マフラーを深く口の上まで巻いて、校門をくぐる。今にも泣き出しそうな空を見上げて、今日も一日頑張ろうと、なぜかいつになく意気込んでいたら背後から声がした。



「あっ、スガ!おはよう」



今にも泣き出しそうな空、なのに、その声が聞こえるとまるで雲間から日差しが差し込むみたいに俺の心が温かくなる。振り返れば苗字がこちらに向かって大きく手を振っていた。そして俺に向かって走ってくる。ああ、スカート短いのに、見えちゃうって…。そんな心配(期待?)をよそに彼女は俺のところまでやって来た。



「今日も早いね」

「苗字も、朝練?」

「うん!でも、もうすぐ三年生で新入生も入ってくるから、気合入っちゃうもんね」



苗字は寒そうに手と手を擦り合わせながら笑顔でそう言った。今日は特に冷える。彼女はテニス部だから、野外の練習で俺たちよりも寒さは応えるだろう。少し考えてから、俺は自分の首からマフラーを取った。



「これ、巻きな」

「え?でもそれスガの…」

「いいんだ、俺の練習は体育館だし。今日はかなり冷えるからさ、特に帰り」




まだ俺の体温の残るマフラーを半ば無理やり彼女の首にかけた。苗字は驚いてされるがままになっていたが、俺の顔を見上げて嬉しそうに笑った。「ごめん、いつもはマフラー持ってるのに今日に限って忘れちゃって…」と照れ臭そうに俯く。



「ありがと」

「いいって。俺寒くないし」

「本当に?あ、これいつ返せばいいかな」

「いつでもいいよ」

「うんと、じゃあ明日の朝スガのクラスに持ってくね」



苗字はそのまま手を振って自分の部室へと歩いて行った。その背中を見送る。目の前に自分の息が白く滲む。そうして彼女の姿はドアの向こうに消えていった。マフラーを失った俺の首元には当然容赦なくチリチリと冷たい空気が触れたけど、でも寒いだなんて思わなかった。俺のマフラーが彼女を温める。そう思うと変な安心感があって、俺は首の後ろに手を当てながら自分の部室に向かった。

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