「月島」



練習が終わった後、ドリンクをぐびぐびと飲む干す月島に話しかけた。「菅原さんトスあげてくださいよー!」と騒ぐ日向を振り切るのは大変だった。月島はしれっとこちらに視線を向ける。「…なんですか」と言う月島はものすごく面倒くさそうだ。



「体育祭委員けっこう頑張ってくれてるじゃん」

「六人しかいないのにサボる人間に見えますか」

「正直見えてたよ」

「はあ、まあ別にいいですけど」



それは本当の話だ。初めて体育祭委員で集まって月島がいたときは、正直絶対に戦力にならないと思っていたから。それが毎回きちんと時間通りに来ているし真面目に作業もしているからものすごく意外に思って可笑しくも思っていた。



「苗字とも仲良くなったみたいだな」

「苗字さん…?別に普通ですけど」

「山口から聞いたぞ」



言った瞬間、月島が山口に鋭い視線を向けた。体育館の反対側で日向と一緒にいた山口は視線に気づいてびくりと身体を揺らした。しかし月島は俺に視線を戻してはあと息を吐いた。月島が素直じゃない性格なのはよく知っている。



「山口から何を聞いたのかは知りませんけど、何の話だかわかりません」

「ふうん?」

「なんですかその顔」



もう僕はあがるので、と言って月島は上着を手に持って体育館を出て行った。それを見た山口も駆け足で体育館を後にした。きっとあれは照れているだけなんだろうなあ…。彼らの背中を見送っていると体育館の外を女子テニス部の部員が歩いていくのが見えた。その中に森重の姿を見つけたが苗字の姿がない。森重は俺に気が付いて会釈してきた。俺も手を上げる。



「部活終わり?お疲れ」

「お疲れ様です」

「苗字は…?」

「あ、名前さんは足捻って早退しました」



聞いた瞬間俺は「だ、大丈夫なの!?」と勢いよく聞いてしまって森重を驚かせてしまった。森重は目を丸くしながらも「さっき連絡があって、軽い捻挫だって言ってました。あと一週間もすれば練習に復帰できるらしいですよ」と言った。安堵が俺をいっぱいにした。そんな俺たちの隣を他の部員たちが歩いていき、俺は視線を感じていた。多くが俺を苗字の彼氏だと思ってるらしいから当然と言えば当然か。



「菅原さんって…」

「え?」

「いや、なんでも」



森重が俺の顔をまじまじと見ながら言う。俺が首を傾げると、彼女は首を左右に振った。もしかして、俺が苗字に好意があるの、ばれてしまったかな。不意にそう思って俺は拳に力を入れた。だめだ、ばれたらだめだ。万が一本人に伝わって困らせても嫌だから。俺はこれ以上話したらまずい気がして彼女に挨拶をして体育館に戻った。片付けはもう終わっていた。



「足、大丈夫…と」



帰り道、みんなで並んで歩きながら俺は苗字にメッセージを飛ばしていた。すると暇だったのかすぐに返事が来た。「大丈夫だよ。でもどうして知ってるの?」という質問が来たので「たまたま森重に会って聞いた」と返すと「そっか。でも大丈夫だから心配しないで」とまた返事が来る。すぐに月島に伝えなきゃいけない気がした。でも、言いたくないと思っている自分もいる。山口と一緒に歩いてくる月島に田中が肉まんを差し出しているが、俺はそちらには目を向けずに地面を見つめていた。

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