蟻の歩く速度で


はじめて倉持を好きだという女の子を前にした。いや、今までに彼を好きと言う人は聞いたことがあるけど、今回はレアケースで要するに初めてだ。半ば宣戦布告されたのだ。「苗字さんは倉持くんと仲がいいみたいだけど、私、今日告白しますから」と全く知らない女の子から突然言われた。まあ、顔は見たことあるかなあくらいは思ったけど。きっとずっと倉持のことが好きで彼のことをずっと見てて、それで嫌でも私のことを知ってしまったんだと思う。彼を誰にも取られたくない気持ちと、彼女を同志のように思ってしまう気持ちが交差して何とも言えない気持ちになった。変だなあ。



「はあ」

「どうしたの」

「あー、なんでもねーよ」

「告白された?」



言った途端倉持は激しくせき込んだ。図星か。まあもうすでに知っていたから私のチートかな、なんて思ったけど。彼の反応を見ながらいちごミルクを胃に流し込んでいると、倉持は目を丸くしながら「なんで知ってんだよ!?」と大声で言った。私は気にしないふりをしながら答える。



「私、宣戦布告されたもん」

「ああ?お前に?」

「私を脅威と捉えたんじゃない?変だよね、勘違いなのに」



私がそう言うと、倉持は納得したような顔をしていた。そして頬のあたりを人差し指で掻きながら小さく何か言った。私は聞き取れずに「なに?」と聞き返した。すると「そんなでけえ声で言わなくても聞こえてんだよ!」と怒られてしまった。よっぽどあんたの方がうるさい。



「別に、変じゃねーだろ」

「え、何が」

「だから、俺らは仲がいいし、変でもねーだろって」

「…え?」

「あー!なんでもねーよ!大したことじゃねーから!」



倉持はなんだか赤くなっていた。俺たちは仲がいいって、そんなふうに思っていたんだ。そりゃあ、他人と思われているよりかははるかにいい。それが友達という意味であれば悲しいけど、でもとても嬉しい。今日の私は相反した感情が入り混じって変な感じだ。でも、それでもいいと、なぜかそう思えた。



「…断ったの?」

「そりゃそーだろ。そもそもあいつ知らねーし」

「そっか」



当たり前だけど安心して、私は笑顔になるのを感じながらまたいちごミルクを飲んだ。ふと倉持を見ると彼もこちらを見ていて、「何嬉しそうにしてんだよ」と言われた。顔が熱くなる。でも、そのあとに「気持ち悪い」とかいう言葉が続かなかっただけ、何か進歩したんだと思う。

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