雨傘と憂鬱とてのひら


倉持が立てた前髪を撫で上げるのをぼうっと見つめていた。外は雨だった。倉持がふとこちらを見て「なんだよ」とぶっきらぼうに言うので私は視線をそらしながら「なんでも」と小さく返す。最近、倉持に自分の気持ちに気づかれているのではないかと不安になることが多かった。少し、よそよそしい気がした。それが私を男友達のように扱わなくなったと考えれば嬉しいことなのだが、それで距離ができてしまったのでは意味がない。彼から視線をそらしてそのまま窓の外を見た。すごい雨だ。空は白く濁り、雨は滝のように降ってきている。



「部活は、こんな日はどうするの」

「室内施設もあるから問題ねーよ」

「あ、そうか。さすが強豪だけあるね」



私が笑うと倉持も少し笑った。じんわりと安心感が胸に満ちていく。ふと、彼のひじに擦り傷があるのに気が付いて私はそれを見つめた。中学のころから野球ばっかりだったけど、今も本当に野球ばっかりなんだな。そう思うとなんだか微笑ましかった。それに気づいた倉持がまた顔をしかめて「だから、なんだよ」と言うので私は慌てて首を横に振った。いけないいけない。



「早く終礼終わんねーかな」

「今日何かあるの?」

「何って、練習だよ」



倉持が言ったのとほぼ同時に先生が終礼を終わらせた。倉持は「じゃあな、気を付けて帰れよ」と言って、さっさと部活に行ってしまった。しかし私は目を見開いていた。今、気を付けて帰れって、言われた。今までそんなことを言われたことなんてなかったのに。これは、少しは女の子扱いしてもらえたのではと思って私は嬉しくなった。




学校を出ようとして下駄箱にいると、ふと傘がないことに気が付いた。どうして、いつもは折り畳み傘を持っているのに。この雨じゃ傘がなきゃ帰れない。雨が弱まるのをしばらく待とうかと考えていると、頭をこつんと叩かれた。驚いて振り返ればそこにはユニフォーム姿の御幸が立っていた。片方の口角を上げて私を見ている。



「今日は予報でも雨だぞ」

「…いつもは折り畳み持ってるし…」

「ほら、これ」



御幸がビニール傘をこちらに突き付ける。驚いているとそれを無理やり握らされた。「どうせ俺は寮だし練習で汗かくから雨に濡れるも関係ねーからな」と言いながら。私が言われるままに傘を受け取ると、御幸は満足そうにうなずいて私の頭を撫でてから踵を返して走り去った。いきなり頭を撫でられて動揺する。な、なに…。しかし、走り去る御幸がふとこちらを振り返る。



「濡れないようにしろよ、風邪ひくからな」



どくんと心臓が脈打った。なにそれ、御幸のくせに。

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