あるままの世界でいて
「おーい、倉持が女子に話しかけれてんぞー」
体育の時間に御幸が私に近寄ってきて、わざわざ大きな声で言った。「うるさいなあ、そんな大きな声で言わなくても聞こえるよ!ていうか見りゃわかるわ!」と私が言うと彼は面白そうに笑う。彼の言葉通り、倉持はクラスの女の子たちに話しかけられていた。二人の女の子、二人ともかわいいし、そのせいか倉持も赤くなりながら何か答えている。あんな顔私にしたことなんてないもんな。なんだか複雑な気持ちになりながら、倉持から視線を逸らす目的もあって御幸を睨みつけた。
「そんな怖い顔すんなよ」
「してない」
「じゃあ睨むのやめろよ」
「睨んでない」
「はっはっは!」
御幸は高らかに笑うけど、何も面白くない。あーあ、と自然とため息と共に声も出た。よく倉持は性格が悪いと言われているけど、御幸はそれ以上に性格が悪い。好きな男の子がほかの女の子と話して顔を赤らめている姿なんて見たいわけがない。それをわかっていて、こいつは私に話しかけたのだろう。腹が立ったので御幸の足を思い切り踏みつけたら「そんなん痛くねえよ」と言って軽く頭を小突かれてしまった。
「なんだあいつ純情かよ」
「倉持はそういう人なの」
「お前趣味悪いな」
「余計なお世話です。ていうか何の話」
「またまたそんな白々しい」
そう言って御幸はすとんと腰を下ろした。校庭の端にある芝には日影が出来ていて涼しくて気持ちいい。私もつられてその隣に座った。倉持はだんだんと女の子たちとの話に慣れてきたのか先ほどの頬の赤らみや戸惑っている感じはなくなっていたが、それでもやはり目は合わせていなかった。女の子たちが楽しそうに笑っているのを聞きながら、私はそっと目を伏せた。このまま寝てしまいたい。そしてなんでまた御幸が隣にいるのだ。体育祭の出し物で男女一組になるのに御幸と一緒になってしまったのだから仕方がないんだけど。
「はあ…御幸も私を不快にさせる暇があったらもっと有意義なことしたら」
「へえ、不快にさせたんだ俺」
「わかっててやってるくせに…」
「まあ、俺からしてもいい気しないしな」
御幸はこちらを見て笑っていた。え、今なんて…と聞こうとする私を遮って御幸は「俺の方がイケメンだし、いいと思わねえ?」と聞かれて私は首を縦に振ることも横に振ることもできなかった。いいと思うって何の話だ。いいって何。何の話?私がぽかんとしていると御幸は急に立ち上がって行った。
「まあ俺の方が女子からの人気はあるし?倉持には何も負ける気がしないんだけどな」
目の前にあった御幸の脛を殴ってやった。「いてえ!」と彼が叫ぶ。何を言い出すかと思えば、そんな馬鹿みたいなことを…。一瞬動揺した自分が情けなくて私は頭を抱えてからもう一発彼の脛を殴った。
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