たったの一握りでいい


倉持が先生に当てられたけど寝ていたせいで何も答えられずに呆れられていた。野球部員は強豪とだけあって、スポーツ推薦で入った生徒は先生も甘く見ているようだった。まあ彼らは勉強して成績を上げるよりスポーツで実績を上げて学校に貢献しているのだから。倉持は悪びれた様子もなくまた机に突っ伏した。



「代わりに答えてやればよかったじゃん」

「なんでよ、そんな悪目立ちするようなことしない」

「倉持が困ってんのにかー?」



御幸が憎たらしい顔で聞いてくる。何よ、ていうか別に困ってないじゃんどう見ても。御幸に「俺らはなくはない」と言われて私は「いやないでしょ。ない!」とものすごい勢いで否定してしまったのだが、それでも御幸は涼しい表情で「え?ないの?あっそう」ととぼけたように言っていた。本当にこの人は何を考えているかわからない。女子には一応モテるし、なんだか弄ばれている気もしなくもない。それはさすがに悔しい。私は妙に腹が立って御幸から顔を背けた。



「まあ倉持ってコアなファンしかいないし、大丈夫だろ」

「何の話よ」

「倉持くんが好きなくせにー」

「身に覚えがありません。ていうか声大きいから!」

「白々しい嘘だな」



確かに白々しい嘘だった。御幸にはあっという間に見抜かれたし、それのせいもあってか三人でいる時には特に、私が変な言動を取ってしまうことがあるから。そのたびに倉持は自分のせいとはつゆ知らずヒャハハハハと楽しそうに笑っているが、一方で御幸の笑い方は意味深で観察するように見てくるから正直耐えられない。すっと目を逸らすと妙に面白そうな顔をするから余計に腹が立つのだ。




***



たまたま倉持と廊下を歩いていたら、前から亮介さんが歩いてきた。倉持と校内を歩くって、今までは普通だったのに意識し始めた途端こんなに恥ずかしいんだ、と変な気持ちになっている矢先だった。ピンク色の髪が見えてすぐにわかった。それに今回は、弟の方ではなさそうだ。



「亮さん!」

「亮介さん、お久しぶりです」

「ああ、倉持に苗字。仲よさそうだね」

「中学から一緒っすからね」

「ふうん」



最近、倉持と御幸の言葉の意味がわかる。亮介さんの笑みに黒い何かを感じたり、確かにする。笑顔の裏に何かあるというのが最近妙に頷けるのだ。そんなことを考えていたら、亮介さんがこちらを見た。心を見透かされたようで思わず目をそらした。うわ、すごいこの人。



「なあんだ。苗字と御幸ってお似合いだと思ってたけど」

「またその話っすか」

「こう見ると苗字は倉持との方がお似合いかもね」



瞬間、顔が熱くなった。一気にお湯が沸いたみたいに。何も言えずに狼狽えていると、先に言葉を発したのは倉持だった。「な、何言ってんすか亮さん…!いつも御幸とこいつって言ってるじゃないすか」と言う倉持の声はなんだかいつもより大きくて明らかに焦っていた。まあそれもそうだろう。倉持は今まで浮いた話もないし、こういうのには慣れていないのだから。私は一生懸命平静を装おうと深く息を吸った。



「私は、御幸とも倉持ともお似合いじゃないですよ」

「えー、そうかな」

「はい。二人とも私には勿体ないですよ」

「おいそのすげえ気持ちのこもってない笑顔で言うな」



亮介さんは何を意図してこういう言葉を私たちに投げかけるんだろう。変に不安になる。そっと隣の倉持の顔を盗み見れば、頬はほんのりと赤かった。少しでも、倉持に意識してもらえるかな。そんな考えが頭をよぎったら嬉しくなって、いつの間にか亮介さんに感謝していた。

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