ゼロパーセントの話


「なあ、お前ら付き合ってんだって?」



思わず口に含んでいたいちごミルクを吹き出しそうになった。慌てて甘いそれを飲み込んで咳き込んでいると、倉持は「おいおい大丈夫かよ」と言って背中を摩ってくれた。こんなこと認めたくないんだが、倉持は私を女の子として見ていないと思う。と言うのも、倉持はけっこうウブだから、女の子が咳き込んでも背中を摩る勇気なんてない。と言うより、あまり女友達もいない。だから、こんなにすんなり背中を摩られてしまう私は完全にアウトと言うわけだ。少し悲しくなりながらも「大丈夫、大丈夫だから」と倉持を制した。彼の手が離れていく。



「で、どうなんだよ」

「んなわけないじゃん…冷静に考えてよ、んなわけないでしょ」

「なんで二回も言うんだよ」

「それだけありえないから」



私がまだ名残の咳をしていると、倉持は疑わしそうに私を見た。お前たち、とは私と御幸のことだ。そんな噂が立ったのは今回が初めてじゃない。でも、その話が倉持の口から出たのは初めてだった。好きな人の口からそんなことは聞きたくなかったので少し落ち込む。倉持はまるで私の気持ちには気づいていない。まあ、気づかれてしまってはそれはそれで困るのだけど。「なんだ、つまんねえな」と言う倉持に私は何も答えなかった。何がつまらない、だ。私だってこの状況はつまらない。



「もしお前らが付き合ってたらいろいろ面白いのによ。うちの先輩たちに言ったらきっと御幸はフルボッコだな。ヒャハ」

「それ別に私じゃなくていいじゃん。やだよ御幸なんか」

「いや、亮さんがお前と御幸がお似合いだって」

「ああ、亮介さんが?なんでよ、意味わかんない」



亮介さんとは倉持と御幸の先輩で、ピンク色の髪がトレードマークのにこにこ笑顔の先輩だ。この前廊下で見かけて話しかけたら弟でびっくりしたんだけど。あんな髪の人、そうそういないものね。二人曰く亮介さんの笑顔には裏があると常々聞いているが、まあ私はよくしてもらっている。野球部は練習が厳しいせいもあってか、彼女持ちの部員数はかなり少ないらしく、彼女のいる部員はいびられるらしい。亮介さんと、あとはそれこそ御幸なんかはいてもおかしくないのにな。まあ目の前にいる倉持なんかは当然いないといった感じだが。



「とにかく私と御幸とかありえないよ」

「俺がなんだって?」

「だからお前と苗字が」

「いや言わなくていいでしょ」



そこに御幸がやって来たので言いかける倉持を止めた。御幸は私が倉持を好きなのを知っているからこの会話はやっかいだ。でも、一方の倉持は常の会話と言った感じで「ほら、いつも亮さんが言ってんだろ」と言った。すると御幸も御幸で「ああ、その話な」とすんなり納得していた。え?と私だけが取り残されていると、倉持に「いやお前らがお似合いって話は亮さんの口からよく出る話だから」と言われた。思わず顔をしかめる。よく出る話ってなんだ。そんな当然のように言われても困る。御幸もおかしい。そんなこと言われても何もなかったようにパンを齧っている。いや、まあ変な反応をされても気持ち悪いのだけど。



「はあ…とにかくないって亮介さんに言っといてよ」

「いや、でもいつも御幸が否定しないからよ」

「…え?」

「だって俺ら、なくはねーだろ」



倉持がヒャハハハ!と笑う隣で御幸は何やら意味深な笑みを浮かべながらまたパンを齧った。いやあなた何を言っているんですかと一発殴ろうかとかいろんな思考が入り乱れたがどうすることも出来ずに私は気づいたら大声で「はあ!?」と叫んでいた。

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