昨日も今日も明日も


紹介しますこちらが御幸一也くんです。授業中なのに鼾をかいて寝ております。倉持とは縁があって中学から今の今までずっとクラスが一緒だ。確かにそうだ。けどこの御幸一也とは縁では済まされない何かがありそうなのだ。高校の入学式に不安だからと倉持と一緒に行こうとしていた私に、倉持が寝坊という失態を犯し私は一人で学校に向かうことになったのだが、ホールを目前にして持っていた筆箱の中身をぶちまけた際に御幸一也と出会った。私の落としたペンやら何やらを拾いながら、「女子ってなんでこんなに色ペンが必要なんだろうな」と言ってきたので「うわ何この人」と不信感を覚えたのは今でも忘れられない。それが、入学式が終わり教室に行けば倉持とまた同じクラスだと驚いたのもつかの間あの眼鏡もいることに気づいて少し不快になったのは言うまでもない。しかも席が前後だった。



「あ、ちょうどいいや。赤ペン貸してくんね?」

「…どうぞ」



何がちょうどいいんだこの野郎と思ったが、極力態度に出さないようにして赤ペンを貸すと、彼はニカッと効果音のつきそうな気持のいい笑顔を向けられて狼狽える。あ、青ペンも、という彼にもう一本ペンを貸した。そしてくるりとこちらを向いてペンを返してきた彼の顔は先ほどの笑顔とは違ってにやにやとしていたので不思議に思っていると赤と青のペンのキャップが逆に付けてあって「小学生かよ」と思いつつも気持ちのこもっていない笑顔を彼に向けた。こんな感じで御幸一也には何のいい印象もないままだったが、とにかく席替えをする度に彼は前後左右のどこかにいた。次第に私もこいつからは逃れられないと悟ってしまうほどだった。性格悪いなと思うことはしょっちゅうあったし、それで彼に友達が少ないのも十分頷ける。それに加え倉持もあんな感じで友達が少ないから二人はよく一緒にいるのだが、そこにその二人とは縁がありすぎる私がたまに加わることは自然の流れと言えた。



「…んん」

「あ、起きた」

「いって、寝違えた」



御幸がむくりと起き上がった。今日はヨダレを垂らしていない。たまにあるんだよね。彼はちょっとぼうっとしてから眼鏡をかけて私の方を見た。眼鏡を外すとそこそこイケメンだと思う。まあ私の友達には「御幸くんってイケメンだよね、いいなあ名前は御幸くんと仲良くて」という子たちが何人かいるが理解できない。仮にも御幸がイケメンだとしても彼は性格は悪いわイライラさせられることも多いし、逆になんでみんな倉持じゃなくて御幸なんだろうと思ってしまうのだ。倉持は御幸のように顔だちがいいわけではないけど、仲間思いでいいやつなのに。兎にも角にも御幸と一緒にいることを羨ましがられるのは頷けない。



「プリント写させて」

「やだ」

「なんだよ倉持に言われたら快諾するくせに」

「見せればいいんでしょ」



彼に今埋めたばかりの虫食いのプリントを渡せば、楽しそうに笑ってそれを受け取った。御幸に友達が少ない理由の一つは性格が悪いことだが(まああまりみんな気づいていないが)、やはり何を考えているかわからないのがあると思う。そのくせ歯に衣着せぬ物言いをするし、あまり一緒にいて気持ちいいものではない。それに、それは職業病のようなものなのかもしれないが、いつも観察されている気がする。彼はキャッチャーだから打者や投手の観察は欠かせない仕事なのはわかるが、それが私生活にもあるような気がしてならない。同じクラスの親友に倉持が好きだと打ち明けた時は全く気付かなかったと仰天されたのに対し、御幸はそれよりも先に自ら私に言ってきた。「なあ、お前倉持のこと好きだろ」って。あの時の衝撃と動揺と困惑と、すべて忘れられない。私が何も言えずにいるのを、やはりは彼は面白そうに見て笑っていた。



「で、明日も俺らが日直か」

「ね…」



黒板に並んだ私の名前と御幸という文字。日直は全員が当たるようにランダムのくじ引きで決まるが、これもなぜか必ずと言っていいほど御幸と一緒だった。一度友達に「裏で何かやってんの?てか付き合ってんでしょ」なんて言われた時は思わず立ち上がって否定してしまった。どうにも、この御幸一也という男とは、どうにも離れられない。

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