太陽に向いて咲く | ナノ
小さな影を落とす


御幸先輩が女子生徒を中庭で肩車をしているという衝撃的な現場に居合わせてから数日が経った。話によるとその女子生徒は御幸先輩と倉持先輩のクラスメートの苗字さんという人で、飛ばされた試合のエントリー表を取るためにあのフォーメーションを組んだらしいが、あれはとにかく衝撃的だった。



「本当にびっくりしましたよ!だってあの御幸先輩が女の子を肩車してんすよ!」

「へーえ…で、まさか彼女じゃねぇだろうなあ御幸」

「違いますよ、純さんとりあえずバット置いてもらえますかね…」



血管を浮かばせている伊佐敷先輩に、じりじりと後退りする御幸先輩。「余計なこと言ってんじゃねーよ沢村」と小声で言われたが、伊佐敷先輩の圧力があまりにすごいんで、俺は何かに巻き込まれる前にその場を離れることにした。倉持先輩のもとに駆け寄る。



「倉持先輩、何見てるんすか?」

「…チッ」



遠くを見ていた倉持先輩だったが、俺の言葉を聞いているのかいないのか、鋭く舌打ちをして走り出した。後を追おうとしたが先輩は本気で走っているらしく、俺との差は開くばかりだ。何だ!?と思っていると、倉持先輩が走っていく先に女子生徒たちが走っているのが見えた。あのウェアはバレー部か。その走っていく生徒の中に一人、立ち止まっている人が見えて、それがあの苗字さんだと気づいた。そして彼女が足を止めている理由が、男子生徒が腕を掴んでいるからだと発覚する。



「苗字さん」

「放してください、今練習中ですから」

「でも、」

「おい、テメェ日本語がわからねーか。練習中なんだから邪魔してやんなよ」



突然聞こえた倉持先輩のどすの利いた低い声に二人とも驚いたように振り返った。俺も、倉持先輩のそんな声音を聞いたのが初めてで驚く。男子生徒は怖じ気づいたらしく、苗字さんの手を放して一目散に走り出した。そう言えば倉持先輩、元ヤンって話だからな…。呆気に取られていた苗字さんが我に帰って言う。



「…ありがとう、倉持くん」

「別に。いーから練習戻れよ」

「う、うん。ありがとう」



苗字さんが何度もお礼を言って走り出す。その背中を見送っていた倉持先輩がやっと俺の存在に気づいた。「なんだ、お前いたのかよ」、と言いながら息をつく。



「倉持先輩かっこいっすね!ヒーローみたいでしたよ!」

「あいつ…あの男、ストーカーに付きまとわれてんだよ」

「…えっ…」


 
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